新しいニットの世界が見えてきた――丸編み製造のカネマサ莫大小(和歌山市、百間谷和紀社長)が、東京・表参道のティアーズギャラリーで「ワッツ・ニット?展~これが、ニット。これも、ニット。」を開催中だ。独自の機械で密に編んだ「スーパーハイゲージ」の生地を題材に、5組のクリエイターが制作したアート作品を展示している。7月11日まで。
デザインスタジオのタクトプロジェクトによる企画・クリエイティブディレクションの下、「CFCL」デザイナーの高橋悠介氏、建築家の大野友資氏、テキスタイルデザイナーの氷室友里氏、アーティストの小野栞氏、タクトプロジェクトのクリエイターが参加した。
提供した編地は、一般的なTシャツ地の2倍近く密度が詰まった36~46 ゲージ 。カネマサ莫大小が編機から開発した主力素材で、クリエイターらはそれぞれの視点で技術や表現の可能性を探った。
高橋氏は、筒状に編み上がる丸編みの生地にできるだけハサミを入れず、3着の服を仕立てた。本来は切り開き、パターンをはめて裁断、縫製する丸編み製品で、生産ロスを最小限にする試みだ。糸は再生ポリエステル。10種の組織を編み続きにし、編み方の違いで多様な柄が表現できるジャカードの面白さも伝えた。
大野氏が提案したのは、ニット化粧板。木の柔らかい部分を削って木目を強調するうづくり加工を施した板に、46ゲージ の二重編みを貼り合わせた。生地が木目の凹凸に追従し、繊細な模様が浮かび上がる。インテリアや家具向けを想定する。
織物を専門とする氷室氏は、織物とニットの構造の違いに着目。組織に空間が多く、糸の特徴が生地に表れやすいことを生かそうと、撚り方向と太さの違う2種類の綿糸で強撚糸を作った。同じ糸でも編み方によって動きや表情が変化し、「生き物のように糸が勝手に動き出す感じが面白い」(氷室氏)。ランプシェードにし、1枚の中に透け感と凹凸が表れる美しさを強調した。
小野氏は、機械で編めるギリギリの細さのポリエステルモノフィラメント糸で、繊細で透明感のある薄地を開発。同じ生地で作った糸を手で編みつなぎ、異なる質感を同居させた。
タクトプロジェクトは、熱融着糸を編み、硬く構造をなす部分と丸編みの柔らかさが同居する花のつぼみのような立体を一面に並べた。
カネマサ莫大小は1964年創業。近年はハイゲージに特化して設備投資し、オリジナルの糸と編み機で差別化を進めてきた。今回の企画は「原点に戻って、丸編みのユニークさや可能性を見たい」(百間谷社長)と実現した。
ブランディングの意味合いも大きい。同社は昨年11月のクラウドファンディングで手応えを得て、今年4月に製品ブランドを立ち上げた。コロナ下でDtoC(メーカー直販)の流れが加速していることから、消費者への訴求を強める。アパレルへの自販も拡大する。「原価率を上げ、適正な価格で消費者が納得できる商品を販売していくことが、ニット産業の持続可能性につながる」と百間谷社長。その成功例を作りたいという。今回の取り組みを生かし、新しい製品ブランドやアパレル以外の用途開拓も視野に入れる。「新しい需要を取り込んでいかなければ厳しい。いろんな可能性を発信しながらブランド価値を育てていく」考えだ。
(作品写真のみ小川真輝氏撮影)