【記者の目】転機を迎える国内縫製工場 ブランドと工場はパートナー

2022/10/11 06:30 更新


 6月27日から7月11日まで9回、本紙で複数の記者による「有力縫製トップに聞く」を連載した。国内縫製業が目指すべき未来について、全国の有力縫製工場の経営者に登場してもらい、それぞれの思いを語ってもらった。継続して工場を取材する中で必要と感じたのは、工場とブランドが互いに尊敬し合える関係構築の必要性だ。

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数ヵ月先まで受注

 国内縫製業の状況は連載を終えた7月以降も好調だ。「11月まで工場のキャパシティーはいっぱい」「すべてのオーダーを受ければずっと先まで工場を稼働できる」。記者が取材する東海地区の縫製業の経営者の多くがそう答える。岐阜市が四半期ごとに発表している岐阜縫製産業の22年4~6月の景気動向調査では、DI(景気動向指数)について「加工賃」「受注」「操業度」など八つの項目全てで悪化が見られなかった。これは09年1~3月以来となる。岐阜縫製産業の動向だが、工場の好調を表す指標の一つになるだろう。

 物作りの依頼が増えるということは、仕事の選択肢が増えるということ。縫製加工賃についても交渉しやすくなる。「同じ目線で工賃交渉ができるようになった」(サンワーク)、「ブランドにもよるが、適正な工賃を要求しやすくなっている」(イワサキ)などの声も連載にある。

 だが、今の状況を手放しで喜ぶことはできない。現在の国内縫製業へのオーダー集中はコロナ禍による海外サプライチェーンの不安定と急速に進む円安、原材料費高騰など外的要因が大きく影響している。状況が落ち着けば、コスト競争力のある海外生産にオーダーが戻る可能性もある。

目指す方向語り合う

 では今、工場はどんなアクションを起こす必要があるか。一つはブランドと「取り組む」関係の構築だ。取り組むとは、同じ目線で対等に互いをリスペクトし、ビジネスができる関係のこと。

 先日ある縫製団体に「メンズパンツ300枚を急ぎで縫ってくれないか」と問い合わせがあった。単発発注であるスポット生産依頼の典型例だ。それまで縫製委託していた縫製工場が廃業するので困っているという。依頼された加工賃は2000円。「絶対に採算が合わない」と団体幹部は説明し、「その工場を廃業に追い込んだのはあなたでは」と伝え断ったそうだ。

 誰もが知る著名ブランドですら、今だに「明日までにサンプル作って」と無茶とも取れる要望をしてくるという。スポット取引の全てがだめなわけではないが、サステイナブル(持続可能)な取引が求められるこの時代にそぐわなくなっている。

 同時に工場側も初心を忘れないことが大切だ。受け切れないほどの仕事がある今は仕事を選べる、ある種強い立場にあり、取材では低い単価の発注を投げかけてきたブランドに対して、きつい言葉を返していた工場もあった。これでは立場が逆転しただけで、本質的な解決にはなっていない。

 今必要なのはブランド側と工場側の双方が顔を突き合わせて話し込み、通年で取り組める関係性を構築すること。それは発注者、受注者の関係にとどまらず、ブランドと工場、それぞれが目指す方向性を共有し、活発に語り合う関係だ。お互いを成長のために不可欠な〝パートナー〟という考え方に転換する必要がある。

毎年コンスタントに新卒採用を続けている(サンワーク)

実習制度から〝卒業〟

 もう一つ、工場に必要なのは日本人技術者の育成だ。コロナ禍で外国人技能実習生の来日が困難になり、工場のキャパ不足を招いた一因になっている。今でも「高齢化が進む中国から実習生が来るのは困難」という声は強い。ベトナムなど他国は「パーツ縫いしかできない人も少なくない」。ブランドと取り組もうと思うと、段階的に技能実習制度から〝卒業〟できる体制を作っていく必要がある。

 連載にもあるが、今後は縫製工場は縫うにとどまらず、3D、CGを活用したサンプルの製作やメタバース(インターネット上の仮想空間)の研究、ファクトリーブランド開発なども必要になるだろう。それは最長5年しか日本に滞在できない技能実習生ではハードルが高いはずだ。

 高難度な物作りを追求するサンワーク(岐阜市)は、以前は技能実習生が主体だったが、今では若手を中心に日本人技術者の方が多くなった。さらに今年は昨年の2倍の約30人の就職希望者が来ているという。岩手モリヤも05年に技能実習生の受け入れをやめ、地元採用を進めてきた。今では30歳前後のスタッフが現場を支えているという。少しずつ、こういった体制を縫製工場は構築していく必要があるだろう。

森田雄也=名古屋編集部縫製工場担当

(繊研新聞本紙22年9月5日付)

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