【記者の目】再定義迫られるコロナ下の百貨店 不特定多数から特定顧客へ

2022/06/13 06:27 更新


 コロナ禍で、百貨店の収益構造の脆弱(ぜいじゃく)性が露呈し、消費行動の変化で従来の都心立地の優位性が発揮できなくなった。コスト削減など構造改革やデジタル化の加速が最重要の経営課題だ。百貨店を再定義し、「全てがお客様のために」という日々の変化対応が改めて問われている。

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高額品回復が鮮明

 全国百貨店の21年1~12月売上高は、前年比5.8%増の4兆4182億円だった。4年ぶりにプラスに転じたが、91年の9兆7130億円のピーク時に比べて5割を超える減少を強いられた。コロナ禍の影響だけでなく、それ以前からの構造不況が浮き彫りとなった。

 コロナ禍前の19年比では21.5%減で、改善傾向にあるが消費が復調するまでに至っていない。引き続き、外出自粛や時短営業が繰り返され、客数が大幅に落ち込んだ。インバウンド(訪日外国人)需要も依然として厳しかった。免税売上高は459億円(33.1%減)で、過去最高の3461億円となった19年比で87%減だった。売り上げに占めるインバウンド比率が3割に達していた都心店にとって売り上げ水準を元に戻すことは容易でない。

 一方で、回復基調が鮮明だったのは、ラグジュアリーブランドなどの高額品だ。美術・宝飾・貴金属は25.7%増。都内百貨店ではラグジュアリーブランドの売上高が19年実績を上回った店舗が多い。インバウンド比率の大小で格差はあるが「ラグジュアリーブランドの国内客売り上げが19年比で3割増えた」(都内百貨店)という。「海外旅行ができない」ために海外で消費されていた分が国内に回った。外出自粛で一時的に抑制されてきた反動で「買い物を楽しみたい」との欲求やリベンジ消費が後押しした。ただ高額消費の回復は旅行需要とトレードオフの関係にあり、需要が戻れば反動があることは避けられない。

美術スペースを2倍に拡大し、地域コミュニティーの拠点化を目指す(松坂屋上野店)

 ラグジュアリーブランドや時計・宝飾品に次いで、新たな商品領域として力を入れているのが美術品だ。「特に現代アート市場は拡大しており、コレクターからの人気が高い。今後もこの傾向が続くことが予想されている」(大丸松坂屋百貨店)という。 今までアートに縁遠かった若年層が現代アートを購入し始めており、市場のすそ野が広がっている。高島屋はカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と共同出資でアート販売会社を21年10月に立ち上げた。CCCの現代アート分野でのネットワークを生かして作家を発掘、作品を調達する。大丸松坂屋百貨店は22年1月にウェブメディア「アートヴィラ」を開設、情報発信を始めた。

 コロナ下で、アートに対する考え方が変化しつつある。資産形成として投資するだけでなく、心や生活を潤す使用価値としての美術品を純粋に楽しむ傾向が強まっている。

バイヤーと情報共有

 百貨店の高額消費を支えているのは外商やカードの上位顧客だ。三越伊勢丹は外商顧客に対して1人の担当者が接客していたが、バイヤーや店頭の販売員ら複数の担当者が顧客情報を共有化するようにした。チーム制やバディー制で、担当セールスが不在でも情報共有している別の担当者が付いたり、従来の担当者に年齢が若い担当者を加えたり、男女のペアを組む。バイヤーとの連携では、顧客の要望をバイヤーと共有し、「あなただけの」特別な商品やサービスを提供する。

 松屋は21年春に外商組織を再編し、新たな販路の開拓、活用のために、経験豊富なバイヤーを店頭から外商へ再配置して商品力を強化した。売り場での経験を生かし、これまでにない商品を提供する。

 紳士服バイヤー経験者はスーツだけでなく、自身のライフスタイルそのものを提供する取り組みを始めており、美術畑一筋だった担当者は目利き力を生かして現代アートで売り上げを伸ばした。食品でもレストランと組んで高級冷凍食品を販売。店舗外に販売チャネルを広げることで、これまでになかった新しいカテゴリーの商品を開発する。

 今までの百貨店は全ての顧客を対象にしてきたため、相手のことが分からないことが多かった。不特定多数の顧客を対象に、来店を促す宣伝をして、店頭に多くの要員を配置する非効率なビジネスだった。外商をはじめとした「顔の見える客」に対して経営資源を集中する考えだ。

松浦治=東京編集部大型店担当

(繊研新聞本紙22年4月4日付)

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