繊研記者の問題意識①ー小笠原拓郎の場合

2016/03/18 06:30 更新


繊研新聞は、日本で唯一、月~金の5日間、ファッション市場で、日々起こっているニュースを業界で働く皆さんのためにお届けしている新聞です。
一般紙と違い、ファッションの様々な分野に特化したベテラン記者が独自の視点でニュースを報道しているのが、繊研新聞最大の特徴であり、強み。 そこで今回は、記者歴20年以上のベテラン記者に、それぞれの担当分野について、ファッション業界で働く皆様に是非お伝えしたい、問題意識についてQ&A形式で、語ってもらいました。業界紙記者ならではの熱い思いを是非お読みください。
初回はコレクション担当の小笠原拓郎に聞きました。

 (コメントは16年3月当時のものです)




Q.あなたは誰に向けて記事を書いていますか?

A.ファッションに携わるすべての人に向けて書いています。

単純に、ファッションのトレンドだけを書いているつもりではないのです。シーズンごとのトレンドはもちろん、ファッションの移り変わりを報道することで、今の時代の気分や時代の変化をも書いているつもりです。ファッションビジネスの裾野はとても広いわけですが、自分の書く記事は、直接的にファッショントレンドとは関係ない仕事をしている人にとっても意味あることなのだと思います。

Q.取材で、大事にしている視点は?

A.ものを見る上では常に謙虚に、という気持ちでいます。

プロダクトは正直です。どこで作ったのか、どれだけコストをかけたのか、あるいは抑えたのか、作るプロセスの中に込められた作り手の努力が、如実に現れる。だから、プロダクトを理解すれば、作り手の苦労や利益の出しどころも見えてくる。そう思って、プロダクトが分かるプロになろうと、25年間、取材活動の中でものを見てきました。

自分が楽しいかどうか、それも大事な目線だと考えます。個人的な好き嫌い、という意味ではありません。25年間、ものを見てきて、そんな自分が、それでも面白いと思えるものは本物だと思うのです。

Q.なぜ、繊研新聞は、ハイファッションのコレクション報道を重視するのですか?

A.それが、ファッションのマーケット全体の今後をうらなうことになるからです!

パリ・コレクションを頂点とするハイファッションのビジネスと、マスマーケットは、概して分けて見られ(考えられ)がちです。でも、ファッション好きや高額所得者向けの前者と、日常的に消費される後者は、実際は極めて密接に関わっているのです。

ハイファッションのトレンドはそのままファストファッションに伝播し、情報化が進む中で、そのスピードは加速しています。シーズンごとの流行の変化、進行を見ることは、すなわち、ハイファッションの発信するトレンドがマスに行き渡るプロセスを見ることを意味します。

人はトレンドというものから逃れることはできません。コレクションのトレンドを報告することは、ハイファッションの情報を発信するだけではなくて、マーケット全体の行く末を俯瞰する手がかりを示すこととも思います。

Q.コレクション報道記事のオススメの読み方は?

A.時間が無いときは、見出しと写真の大きさと写真の枚数、記事の分量を感じて欲しい。

紙で読んでいただけると分かりやすいのですが、コレクション記事は、報道すべきブランドやいいコレクションにできるだけ分量をさいてレビューを書いています。ですから、写真を何枚使っているか、どういう順番でどれだけの文字量を使っているのかということも優先順位があります。



2015年10月15日付10面


当然、素晴らしいコレクションにはたくさんの写真と文章を使っています。ですから、時間がないときは、今日の記事でメインになっている写真と文章はどこなのか、というのを確認するだけで、どのショーが素晴らしかったのかを理解できます。

先シーズンのコレクション報道の際は、ランバンとクロエというビッグブランドの素晴らしいコレクションが掲載されている日のトップに使った写真はヴェットモンという若手デザイナーのものでした。

読者の方から連絡もいただきましたが、「ヴェットモンというのはそんなにすごいのか」と記事を見てすぐに思ったそうです。そんな伝え方ができる、自由なレビューも繊研新聞ならではだと思っています。



2015年10月14日付け1面


Q.コレクション報道を担当する中で、今、一番の問題意識は?

A.自由なクリエーションとビジネスの間に生じている矛盾です。

90年代を中心に起こった老舗ブランドのリニューアルが、20年の月日を経て、閉塞感をもたらしているように思えてなりません。ディオールとランバンで今(16年2月中旬時点)、アーティスティックディレクターが決まっていないのですが、おそらく後任になるデザイナーも大変で、なかなか引き受け手がいない。

大手ブランドのディレクターを任されるというのは名誉なことではあるのだが、それを任された結果、デザイナーたちはハッピーなのかどうか。大手ブランドはデザイナーの才能を消費し尽くし、その後は違うデザイナーへバトンタッチする、そんな構造のようにも思えます。この仕組みが有効なのかどうかが問われている時代と言えるのかもしれない。

ファッションに必要なのは、自由なエネルギーに溢れたクリエーションです。若手デザイナーたちの自由な気風に溢れたコレクションは、今の時代に新風を吹き込むものでもあるし、束縛のない自由なクリエーションは観るものに感動を呼び起こす。そこにファッションの本質がある。

問題は、そういう自由なクリエーションとシステムとしてのファッションビジネスの間にある矛盾です。克服されるのか、あるいはされないまま、1つのシステムが終るのか。90年代から始まったラグジュアリーブランドのビジネスのフォーマットが大きく変わる時期なのかもしれません。

16年はそこが大きくクローズアップされる年だと思います。



2015年12月7日付1面



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