IFFセミナー「ユニクロ対ザラ」

2015/02/26 13:02 更新


≪JFW-IFF1月展・会場セミナー≫ 

講師:ディマンドワークス代表 齊藤孝浩氏

今こそODMはSPA化を目指せ

-著書「ユニクロ対ZARA」より ZARA創業者オルテガ氏に学ぶ起業家精神-

 

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 今回のIFF会場なので、メーカーさんが多く出展され、専門店のバイヤーさんがたくさんいらっしゃる。皆さん、ユニクロについてはご存知だと思うので、ザラを取材するなかで、創業者のオルテガ氏の考えに共感したこともあり、一時間で本の紹介を兼ねて、ザラに焦点をあててお話したいと思います。

(※講演の動画は約1時間です。同じ内容をテキストで読むこともできます。)

■売り切り上手なファストチェーンに学ぶ

 まず、自己紹介をさせて頂きます。商社とアパレルと小売チェーンでトータル15年ほど実務を経験し、その後、独立した経営コンサルタントです。11年目になります。専門分野は、ファッション専門店の在庫のコントロールです。店ごとにいかに在庫を最適化させるか、特に多店舗化するとお悩みになる専門店が多いので、成長フェーズにある企業に適した仕組みや組織、ツールなどをアドバイスさせて頂いております。

 店舗数が増えていくと、1店舗からはじまって100店舗になる間にいくつかの節目があります。だいたい、1と3がつく時だといわれています。1店舗、3店舗、10店舗、30店舗、100店舗と節目節目でテーマ、課題が変わってくる。各段階にあわせて、次の段階に向けて、制度や仕組みを変えなくてはいけない。特に1ブランドで、30店舗超、年商100億円超を目指す段階でのアドバイスを私は得意としています。

 ユニクロやザラをなぜ題材に選んだかといえば、ファストチェーンは、ものづくりだけでなく、物を売り切るのが大変上手です。規模の大小を問わず、そこから学ぶことは多い。私の著書も在庫コントロールに視点をおいて書きました。本の趣旨は、誰もが知るユニクロと対比することでザラへの理解を深めたい、というのがあります。

 ユニクロは、日本のベーシック衣料の常識を覆した日本一のアパレルチェーンであり、世界一を目指しています。対してザラは、インディテックスグループというスペイン企業の基幹ブランドであり、売り上げの65%を占めています。世界のトレンドファッションの価格の常識を変えたのがザラの特徴。09年にGAPを抜いて世界一のファッション企業になり、その地位を維持し続けています。ユニクロは4位になっています。

 

≪JFW-IFF1月展・会場セミナー≫ 

講師:ディマンドワークス代表 齊藤孝浩氏

今こそODMはSPA化を目指せ

-著書「ユニクロ対ZARA」より ZARA創業者オルテガ氏に学ぶ起業家精神-

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■“学び上手”の柳井氏、“聞き上手”のオルテガ氏

 さて、二つのブランドは、どんな創業者がブランドを立ち上げ、どのような信念の元に成長させてきたかを見てみましょう。ユニクロは、ご存知、柳井正さん。柳井さんの特徴としては、“学び上手”だといえます。非常に読書家で、様々なビジネス書を参考にしながら、他での成功事例をどうすれば上手く導入できるかを考えていらっしゃる。ローカルチェーンだったころから現在に至るまで、一貫して“世界一になること”を目標に掲げています。そして、毎年大幅な成長を続けることで社員を牽引していっています。

 ユニクロのキャッチフレーズは、『服を変え、常識を変え、世界を変えていく』です。好きな言葉は、『店は客のためにあり、店員とともに栄え、店主とともに滅びる』です。小売ビジネスの本質を突いていると思います。

 ザラですが、創業者は、オルテガさん。柳井さんと異なり、ほとんど公の場には出てこない人物です。株式公開時以外、公の場で撮影された写真がないほどです。その理由として、自身とブランドイメージを分離したい、仕事に専念する時間を作りたいなど、諸説言われています。

 オルテガさんは、“聞き上手”だそうです。押しが強いタイプではなく、自分と店頭の間にいる人間の話に真摯に耳を傾け、スピーディーに店頭にお客を望むものを反映するそうです。口癖は、『世界中の女性におしゃれになってもらいたい』であり、ポリシーは、『顧客が欲しいものをスピーディーにつくり届ける』です。そのために、インディテックスのオフィスは大部屋でフランクな作りになっています。

 両者ともSPA(製造小売業)ですが、出自が異なります。ユニクロは、小売業からスタートし、それがデザイン機能を持って、製造段階までコントロールするようになりました。対して、ザラは、製造業出身です。これは、SPA企業の中でも少数派です。店舗を持って、ディマンドチェーンをコントロールするようになりました。このディマンドチェーンとは、店頭で発生するお客からの要望という意味です。 

 もともとは、OEM会社だったゴアという会社が母体で、あるきっかけで1975年に自分達の店舗を持つことを決心したのが始まりです。きっかけとは、発注のキャンセルです。彼らは、ランジェリーとバスローブの製造を手掛けていましたが、ヨーロッパのバイヤーから発注をキャンセルされました。商品を現金化しないと会社が立ち行かなくなるという危機の中で、自分達で商品を販売することにしました。

 その過程で小売の旨みを知っていくというのがよく知られたエピソードなのですが、それ以外にも、私が調べている内に見つけたこんな話もあります。オルテガさんは、モードにも精通し、リアルクローズにも高い意識を持っていました。そこで、アパレルを企画して、スペインの大手百貨店に売り込みに行った所、バイヤーが権威主義で相手にされなかったことに憤りを感じ、開いた店がザラだというのです。つまり、勝手にキャンセルしたり、顧客の需要に疎いバイヤーと一蓮托生になることに疑問をもったことが始まりです。

 

≪JFW-IFF1月展・会場セミナー≫ 

講師:ディマンドワークス代表 齊藤孝浩氏

今こそODMはSPA化を目指せ

-著書「ユニクロ対ZARA」より ZARA創業者オルテガ氏に学ぶ起業家精神-

■製造コストの安さよりスピードを支える物流網

 ここで、オルテガさんの経歴に触れたいと思います。キャリアのスタートは10代です。13歳の時に中学を中退して、家計を助けるために「ガラ」という紳士用品店でデリバリーボーイとして働き始めます。3年後に、仕事の幅を広げるために、兄と姉が働いていた服地店に転職します。そこで、経営者に服地ではなくアパレルにして販売することを進言します。自らデザインチームを立ち上げて、自社の扱う服地を縫製工場に入れて、製品を卸すというビジネスを始めました。

 ザラは、創業から12年間はスペイン国内のみで展開していました。その時の店舗数は確か80店舗だったと思いますが、ポルトガルに出店したのを機に国際進出を開始します。もともと、資金難だったので、先ほどの服地チェーン店がバルセロナにあるのですが、そこに生地を自動車で取りに行き、ガルシアの縫製工場に戻って必要最小分だけを店頭に並べ、売れたお金で支払いをするというサイクルでした。オルテガさん自身がトラックでスペイン中を走り回っていたそうです。その後、地元の大学教授でコンサルタントだった方をブレインに迎え入れます。以降、物作りはオルテガさんが、管理はその大学教授と分担体制になります。

 ユニクロをはじめとする日本の小売チェーンの拡大には、人件費の安い国で製造し、運んでくるかというファクターが大変重要になります。これはアメリカ企業にも当てはまります。一方で、ザラはグローバル分散出店という手法を取っています。これは、スペインやポルトガルなどの近隣地で製造して、世界で売るという方式ですね。自国のマーケットがそれほど大きくないので、他地域に売っていくということです。

 一国にドミナントを深堀するユニクロに対して、できるだけ多くの地域に出て自社の製品に関心のある層を獲得していくザラという構図になります。商品の運搬に関しても、ユニクロはコストの安さに最大の関心を払いますが、ザラはトレンド性の高い商材を扱っているのでコストよりはスピードに重きを置きます。ヨーロッパだとスペインの倉庫からトラックで36時間以内、地球の裏側でも飛行機で48時間以内という風に、上場で得た資金の大半は物流インフラ整備のために使ったといわれています。ボーイング747のジェットを年間2000本チャーターし、週単位だと40本もの数です。

 ユニクロは、どこでも扱っているベーシックにフォーカスし、なおかつインナーにも裾野を広げる。他方、ザラの中心顧客は働く女性。百貨店で買うには高すぎると思う女性にいかに、こなれた価格で提供するか。私見では、百貨の半額です。ユニクロは、市場最低価格でいかにクオリティーの高いベーシックカジュアルを作れるかを追求。ザラは、最新のトレンドを百貨店の半額で提供することを追求しています。

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■350人のデザイナー、30人の建築家

 何に投資するかという観点も変わってくる。ユニクロは毎年ベーシックを進化させている。一方ザラは、トレンド、ストリートウォッチ、有名人の着こなしの3つを取り入れて、初期在庫を企画しています。白、黒など基本色を大事にし、そこに流行色を取り入れる。あくまでもコーディネートで提案します。一方の日本は単品のヒット商品を作り込みます。アウター、トップス、ボトムス、そこに流行色を取り入れる。去年買ったものとも組み合わせられるもの。例えば、白と黒に黄色とかカラー縛り。日本の企画は無意味に3色となります。

 ザラには350人のデザイナーがいて、うち250人が北半球、100人が南半球です。デザイナーが作りたいものを製造する旧来の流れと異なり、ザラは様々なことを内製化することで、客の要望を反映するのに約3週間。新商品で4週間、追加で2週間という早さです。

 プロモーションにも違いがあります。ユニクロはプッシュ型。ザラはプル型。ユニクロは広告宣伝比率4~6%と小売業の中でも高い。半分以上は新聞の折り込みチラシです。ザラは、原則的には広告宣伝費は使わない。その分、好立地に出店し、店舗の内装にお金をかけます。ザラ業態だけで、内装の建築家が30人いる。

 宣伝にお金をかけるユニクロ、店舗にお金をかけるザラ。ユニクロは、52週欠かさず金曜日にチラシを新聞に折り込む。閑散期も欠かさずにするのは稀です。連休などは回数を増やす。金曜のそれはユニクロから顧客へのラブレターと社内では言われています。ザラは、月と金に新商品を投入します。 ユニクロは、目的買いなので、いかに短時間で買い物が出来るかを目指して売り場つくり、ザラは、滞留時間を増やスことを目的です。

≪JFW-IFF1月展・会場セミナー≫ 

講師:ディマンドワークス代表 齊藤孝浩氏

今こそODMはSPA化を目指せ

-著書「ユニクロ対ZARA」より ZARA創業者オルテガ氏に学ぶ起業家精神-

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■安く作るより値下げを減らす方が有利

 ファッションビジネスにはリスクがあります。「どうすれば消化率があがりますか、利益が上がりますか」とよく聴かれます。結論は、値下げをしなくてすむ在庫を持ちなさい、と言います。では、値下げをしない在庫とは、何か?

 ①商品企画のミス ②無計画に作りすぎた商品 ③価格設定の間違い ④時期はずれの入荷 ⑤店舗の客層を無視して過剰に振り分けられたもの ⑥売れない色 ⑦売れ筋商品を深追いして過剰に追加発注されたもの ⑧売れ筋商品の残品が少量ずつ放置されている―といったことがあります。①は、あまり起きません。多いのは、②~⑦ですね。商品としては売れたけれど、無理に付けた3番目、4番目の色が残るとか。消化率の高さに安心して残品を見逃したり。ザラはそれを避けている。ファッションは13週間だけど、実際は8週間くらい。2、3週目に売れた商品を追加しても死に筋になりやすい。

 ユニクロが上手いのは、週ごとにSKU(在庫最小管理単位)で計画がある。そこから乖離したらすぐにアクションを起こす。売れない商品は期間限定値下げで売り上げを高めるので、初期の在庫リスクはあるけれど、在庫調整で最終的には消化できる。現場で権限があるのが店長。在庫の積み込み権限がある。チラシの配布、媒体選びもある。一般的な専門店の店長よりも大きな権限を持つ。

 ザラは、シーズンの最初に作るのは売ろうとする数量の25%のみです。週に直すと3週間分です。そこはデザイナーの役割です。それはあくまで仮説で、店頭で客がどんな反応したかとかを本部にフィードバックし、3週間以内に返すというのがザラ。日本企業はヒット商品の選定という単品から入るため、カラーを絞り込むが、ザラの商品はコーディネートで企画されている。プロダクトマネージャーが現場の意見を吸い上げ、商品にフィードバックするキーパーソンです。

 商品の原価率は大体30%くらい。値下げしなければ70%の利益がでるように仕入れていますが、大体は、55から60%。上代に対して30~35%は値下げされている。期間限定値下げしているユニクロは、25%しか値下げしていない。これは早く手を打っているから。ザラだと10%しかない。彼らのリスクは最初に作った25%にしかない。必要な在庫しかつくらないから。プロパー消費率は8割超。上手くコントロールすれば値下げ幅も減らせるし、無駄な在庫がないと値下げ率が減らせるというのが学べること。物を安く作るよりも値下げを減らすほうが有利なのです。

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≪今後のセミナー動画&テキスト投稿予定≫

  • 「FB業界の女性リーダー〜私のキャリアと“転機”〜」 株式会社髙島屋代表取締役専務 肥塚 見春氏

  • 「新しいショッピング体験の創造へ 〜ウエアラブルで変わるファッションと人の新しいカタチ」 株式会社ジョリーグッド代表取締役CEO、Wearable Tech Expo総合ディレクター 上路 健介氏

  • 「今こそメードインジャパン ~TATEYAMA Wa'Uから新しい産地ブランド作りを考える~」

    クールジャパン機構 太田 伸之氏
    株式会社三越伊勢丹 婦人・子供統括部(仕入構造改革担当) 中北 晋史氏
    Tokyo 新人デザイナーファッション大賞事務局長 中川 淳郎氏
    アートジョイ代表取締役 小田 浩史氏
    ファシリテーター 中小企業基盤整備機構本部プロジェクトマネージャー 山本 聖氏ほか

     

    次回のJFW-IFFは、東京ビッグサイトで7月22~24日に開催します。大好評の会場セミナーもご期待ください!!

     



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