日常的な〝飲み〟激減 居酒屋ニーズが二極化(日食外食レストラン新聞・森明美)

2023/11/07 12:00 更新


大井町東口駅前オープンした「和民のこだわりのれん街」

 居酒屋業態が今、変化している。コロナ禍を経て多くの人にとって〝飲みに行く〟という行為が、仕事後に軽く立ち寄るような日常の延長線上にあるカジュアルな習慣ではなくなった。10月に居酒屋新業態を再び立ち上げたワタミの渡邉美樹会長兼社長は記者会見で「飲みに行くことが生活の一部ではなく、手帳に予定を入れて店を調べて行くようなものになった」と表現したが、飲み会が事前の計画を必要とするイベント的な意味合いの強いものになってしまった。

高い潜在的需要

 このライフスタイルの変化を受け、居酒屋の新店舗では価格帯の二極化が進んでいる。これまで一般的な居酒屋の客単価は4000~5000円前後が主流だったが、22年以降に新規オープンした店舗は客単価4000円以下の低価格業態と7000円超のミドルアッパー業態に大きく二分されている印象だ。

 低価格帯の居酒屋の主要ターゲットは、まだ〝日常的に飲み歩く〟習慣を持つ従来の酒客だが、この層が激減し新たにZ世代を見据える店も目立つ。20~30代前半のZ世代はアルコール離れが指摘されているが、仲間うちの交流は盛んで潜在ニーズは高い。リピートが取り込めれば長期的な顧客獲得につながり、店にとってはメリットが大きい。

 一方、ミドルアッパー業態が狙うのが、今や大多数と考えられる〝手帳に予定を組み、調べ抜いて飲みに行く〟層だ。〝たまの機会〟のイベントだからこそ奮発して楽しみたい、一格上の本格料理を味わいたいと考えることから、この層は高価格帯をもいとわず「食体験」を重視。外食店全般における専門店化の潮流にもつながっている。

エンタメ性がカギ

 飲酒主体の業態全般というくくりでは、横丁業態も好調だ。複数の飲食店を集めた横丁業態はコロナ前から支持を集めていたが、出店コストが抑えられるという店側のメリットと共に、そのエンタメ性からますます人気が高まっている。大手ディベロッパーが手がける複合施設や地域のランドマークを目指す商業ビルなどには必ず横丁業態を入れる傾向が見られる。横丁の持つ〝エンタメ性〟は〝たまの機会〟の飲み会にマッチする要素というわけだ。

 前出のワタミが10月にオープンし〝次世代の総合居酒屋〟として打ち出した「和民のこだわりのれん街」は、こうした現代の消費者ニーズを巧みに捉えている。同店は焼肉、寿司(すし)、中華など七つの専門業態を集結させ〝専門店の本格料理〟を多彩に提供するスタイルだ。渡邉会長は同店について「横丁業態は意識していない」と語っているが、横丁業態の魅力を併せ持つ。高価格を可能にする「本格料理」と「エンタメ性」こそが、これからの居酒屋の指針となるキーワードだろう。

(日食外食レストラン新聞・森明美)



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