服・雑貨のイトバナシ インド刺繍に魅せられて

2020/04/08 06:26 更新


 インド刺繍を用いた服や雑貨を販売するitobanashi(イトバナシ)代表の伊達文香さんは、大学時代からアマチュアのファッションショーに参加するなど、服への関心が強かった。大学院まで心理学を学び、「ファッションによる自己肯定感は、人の内面が動くという心理学的な面白さもある」という。

(山田太志)

◇社会貢献に関心

 スタディーツアーで初めてインドを訪れている間に東日本大震災が起こり、伊達さんは被災地支援などの社会貢献活動に関心を持つようになった。その後、海外青年協力隊の先輩たちの縁や、奨学生としてのインドへの留学、クラウドファンディングの実施などでインドとの縁が深まっていった。

 そんな中、NGO(非政府組織)との関わりので出合ったのが刺繍だった。保護された女性たちが受け継いできた針と糸で作る作品の魅力に圧倒された。一方で、現地の歴史、宗教、文化、民族など、インドの奥深さを知ることになった。

 「カンタ刺繍」「チカン刺繍」「アリ刺繍」など、扱う刺繍の産地は、イスラム教徒が多い。そこには女性が外で働くことを嫌うイスラム教の慣習が横たわる。さらに、経済発展が加速する中で「すごい技術を持つ職人が、刺繍では稼げず、ドライバーに転職してしまう」という現実もある。

 「何千年も続いた刺繍、文化が失われてしまう」という危機感を強める中、ビジネスコンテストに応募し、最優秀賞で合格。その縁で企業家、金融機関、行政、日本の縫製工場などネットワークが広がっていった。

カンタ、チカン、アリなど多彩な刺繍の服・雑貨を揃える

◇女性ファン増える

 アイテムは、シャツワンピース(3万2000円)やブラウス(2万2000円)などを揃える。期間限定店でのイベントを通じ、40~50代の女性ファンが増えてきた。多いのは、子育てが一段落して「少し高くても良い物が欲しい」という女性。さりげなくインド刺繍のことを伝えると、自らネットなどで調べ、さらに関心を持ってくれる人も。刺繍自体の魅力だけでなく、ゆったりとしたデザインが多い服は、同世代の女性に好評だ。

 販路の拡大や品揃えの強化など、課題は多い。江戸時代からの商家を生かし、坪庭が見えるオフィスを奈良・五条に構えるが、取材時は1カ月ぶりに戻ってきたという。「いずれは、インドの職人さんが来るワークショップができるような直営店も作りたい」と伊達さん。まずは、QRコードを活用して、糸から刺繍まで関わる人々を紹介できる仕組み作りからスタートする。

 経験を重ねる中で、インド以外にもパキスタンやタイなど様々な国・地域への関心も強まってきた。「特に発展途上国の刺繍に特化したような美術館ができれば」というのが夢の一つだ。

古い街並みが残る奈良県五條市に構えるオフィス


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