北陸産地のテキスタイル企業が新規事業を強化している。織・編物製造や染色加工など自社で培った技術を活用してメディカル関連など非衣料分野を開拓したり、自社テキスタイルを使ったアパレル製品ビジネスに取り組む。中には、既存事業と全く異なるプリントTシャツ事業が当たっている丸井織物のようなケースもあり、業態自体も進化させる。
(中村恵生)
北陸産地企業の多くはもともと、大手素材メーカーや商社からの委託加工をベースにしてきた。しかし、海外移転などで業界構造が変化、10年以上前から産地企業自ら生地を販売する「自販」がテーマになっている。この間は、それにとどまらず、非衣料など新しい分野や製品での新規事業立ち上げが広がっている。
織布・丸編み・糸加工のカジグループ(金沢市)は、14年にトラベルグッズの「TO&FRO」(トゥー&フロー)、15年にメンズカジュアル服の「ティモーネ」と、製品ブランドを相次ぎ立ち上げた。いずれも自社テキスタイルを使用する。
生地ブランディングに
トゥー&フローは中川政七商店のコンサルティングを受け、軽量ナイロン織物を使ったオーガナイザー(収納袋)やモッズコート風のレインコートを企画。中川政七商店の店舗や大手雑貨店、セレクトショップなどへの卸を開拓。昨年には羽田空港に直営1号店も開設した。
ティモーネはイタリアテイストのメンズカジュアルで、パイル編みのジレやポロシャツ、ストレッチナイロン織物のジャケットなどを揃える。インポート品を扱うセレクトショップや百貨店など売り先は30店以上に広がっている。「店頭で一番人気の店も出ており、いいお客がついている。これを生地ブランディングにつなげていきたい」(梶政隆社長)とし、製品ブランドを起点にテキスタイルのブランド化を計画する。
ハクサン染工(金沢市)は昨年から消臭機能糸を使ったタオル、靴下、シーツなどの製品を「レスメル」のブランドでネット販売を始めた。自社素材ではないが、国内メーカーが作る高機能糸を独占的に扱えたのがきっかけで、製品直販型で消費者に高い機能をアピールする。このために別会社、ディアを設立、「製品事業で年商1億円を目指したい」(小西大社長)という。
メディカル向け
同じく染色加工のテックワン(石川県)は、15年から介護・医療向けマット「メディマット」を販売する。以前、医療機器商社が行っていた事業を引き継ぎ、同社の加工技術を生かして商品をリニューアルした。カバーは透湿防水ラミネート素材で、液体やウイルスなどの浸透を防ぎ、抗菌防臭加工も施す。全国に代理店が広がり、介護保険適用の個人向けで販路を開拓中で、今後はレンタル需要も期待する。
メディカル関連は国内での成長性も見込め、繊維の展開分野として注目が集まる。福井経編興業(福井市)は、帝人や大阪医科大学と共同開発した心臓修復パッチの実用化に取り組んでいる。生体吸収ポリマー糸と非吸収ポリマー糸を組み合わせ、同社の経編み技術を駆使。強度とストレッチ性を持たせ、小児心臓手術用などを見込む。このほど同社は医療機器に関する国際規格ISO(国際標準化機構)13485を取得した。国内のテキスタイルメーカーとして初の取得で、クリーンルームなどの設備も整えた。