西宮阪急のインストア分析 生産性や店舗の魅力向上へ

2018/10/08 07:00 更新


《販売最前線》西宮阪急のインストア分析 新たな「気づき」で働き方、什器配列を改善 EC並みに来店客データを把握

 阪急阪神百貨店は、今春から3DセンサーやスマートフォンのGPS(全地球測位システム)センサーを活用したインストア分析の実証実験を西宮阪急で開始した。ECでは未購買客を含めた〝全来店客〟の動向把握・分析が可能。対して、リアル店舗は購買客データや自社カードデータの分析はできるものの、未購買の来店客の行動の詳細は把握できていない。

 EC並みのデータ分析に取り組むことで生産性やリアル店舗の魅力の向上に結びつけることがインストア分析の狙いだ。天井31カ所に3Dセンサーを配した同店2階の婦人服飾シーズン雑貨売り場では、来店客の行動データを可視化したヒートマップ分析などから見えた「気づき」をもとに、販売スタッフの働き方や什器配列の改善などに取り組んでいる。

(吉田勧)

客数とスタッフ数のズレ解消

 3Dセンサーを導入した3月、とある1日の時間帯別の滞留客数と売上高、販売スタッフ数などをグラフ化してみると、各指標の相関関係は基本的にきちんと成立していた。ただ、午後2~3時にかけての時間帯が、滞留客数が多いにもかかわらず売上高が凹んでいる。「早番、遅番が重なり合うこの時間は、店頭の販売員が多いはずだった」と同店の岡本満男服飾品販売部ディビジョンマネージャー(DV)。勤務シフト上はスタッフ数は満たされている。

 販売スタッフも店頭に立っていたとは言うものの、実際には同時間帯の販売スタッフ数が少ないことがデータ上で明らかだった。スタッフ数が揃っている分、納品チェックや発注作業など「バッグヤードにこもりやすい」時間帯となっていたことが要因だった。


 解決策として取り組んだのが、各販売スタッフの食事時間と休憩時間を分散化、細分化して、付帯業務の時間もずらすようにした。すると、4、5月と「滞留客数とスタッフ数が同期するようになった」(岡本DV)という。結果、施策実施後の5月の13~16時の売上高構成比が3月と比べて、平日で2%、休日は3%高まった。

コンサル重視の配置に

 売り場内のスタッフ配置の改善にもデータが役立った。来店客の行動とスタッフの行動データをそれぞれ集積したヒートマップをみると、レジカウンターに近いハンカチや靴下などのセルフ販売ユニットにいるスタッフが多いのに対し、メイン通路に面した帽子やパラソルなどコンサルティング販売ユニットのスタッフ数が少なかった。

来店客(左)とスタッフ(右)の行動のヒートマップイメージ

 セルフ販売にスタッフが多い要因の一つは、靴下やハンカチは商品の品出しやたたみ作業が頻繁にあるためだ。「接客による提案」が重要であるコンサルティング販売の担当人員を滞留客数に応じて厚くすることで、3月時点で36%だったコンサルティング販売ユニットのスタッフ構成比が5月は43%に向上した。

 二人連れの来店客へのコンサルティング販売で、当初は買う気のなかった客の一人が「私も買うわ」と、二人とも購入に結びついたこともある。「接点が増えることは買い上げにつながる」(同)とコンサルティング販売重視の意識付けを継続している。

天井31カ所に3Dセンサーを配した婦人服飾シーズン雑貨売り場(売り場面積約264平方メートル)

什器、通路幅を見直し導線作る

 もう一つ取り組んでいるのが什器配列の最適化だ。「VP(ビジュアルプレゼンテーション)を目指して売り場に来ていると思っていたが違った」(同)。VPの横ではなく「その一本奥の通路」からの入店が多かったという。余分な什器をなくすとともに、導線幅を変えるなど「通路幅と見通し」を見直したことで当該導線からの入店が増えた。

 端的に結果が出たのがパラソル売り場だ。什器を減らし、品揃えも3割減らした結果、修正前の売り上げも前年比9%増と伸ばしていたが、修正後は34%増と大きく伸ばした。「酷暑の影響という見方もありましたが、他支店と比較しても当店のパラソルの伸び率は高い」と岡本DV。なお、シーズン雑貨売り場全体も他支店よりも高い伸び率で推移している。

 「今までは売り上げだけだったが、通行量を加えて判断できるようになった」ことの意義は大きく、このほかにも集積データから見えてきた「気づき」はたくさんあるという。「データは山ほどある。仮説をどうするか。どう読み解くかが重要。今回はスタッフと客の動きの連動などに重点を置いた。まずは第一歩です」(同)とのことだ。今後は、商品レイアウトやMD配置の最適化に向けたデータ分析にもとづく「PDCA」の推進も視野に入れている。

傘売り場の什器配列の修正前

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(修正後)余分な什器をなくし導線幅を変えた

全館の店内行動情報の収集も

 シーズン雑貨売り場では3Dセンサーを活用し、ユニット単位で通行客数や入店客数、立ち止まり箇所、滞在時間、スタッフの動きなどの多彩なデータ把握に取り組んでいる。一方、同店全館では「要所にセットした」GPSセンサーで、来店客の回遊、滞在、頻度といった情報を収集している段階だ。いずれの実証実験も1年以上かける方針だ。

「データを見て、作業台を商品スペースに変えました。また1日の店頭と後方作業の時間を考えるようになりました」と同売り場の販売スタッフの建部沙紀さん

「データを起点にした働き方をDNAに」

 インストア分析を推進した堅帯宏壮阪急阪神百貨店執行役員デジタルイノベーショングループオムニチャネル推進室デジタルコミュニケーション推進室担当の話

 ECとリアルでは取得・分析できるデータが大きく違います。現段階での気づきは、思い込んでいたことと実際との乖離(かいり)を具体的な数値で把握できたことが一つ。また、買い上げ率や販売員数と売り上げの相関という観点からも売り場運営の改善もできるようになりました。改善結果に対する素早いPDCAも可能で、デジタル活用による売り場改善が出来ることを実感しています。データの読み解きと改善策を考えるノウハウや、PDCAのフローなどを積み上げて、データを起点にした働き方をDNAにしていきたい。 

(繊研新聞本紙9月7日付)



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