ファミリア神戸本店 目指すはコミュニティー作る場所

2019/04/27 06:28 更新


《販売最前線》ファミリア神戸本店 目指すはコミュニティー作る場所 人が集いつながる体感型サービス

 「これからの店舗の理想は、コミュニティーを作っていける場所」――。神戸本店を旧居留地にオープンした昨年9月、ファミリアの岡崎忠彦社長はそう話した。店内にはスタジオや新業態となるレストランなどが併設され、子供服の販売にとどまらないコンテンツを次々に発信する。ファミリアの思いに共感する家族が集い、つながりが生まれる場になっている。

(西本遥/繊研新聞2019年1月29日付)

 お正月ムードもすっかり落ち着いた1月下旬、神戸本店に妊婦さんが集まってきた。目当ての先はそれぞれ違う。あるママが向かったのはスタジオ。併設するクリニックの医師や看護師が胎児の心音を確認した後、専門の講師の指導のもとマタニティービクスを楽しむ。別のママは、沐浴設備のあるカウンターへ。お湯を使っての赤ちゃんの入浴や、肌着の着せ方を体験した。

 3日間にわたって神戸本店で開催した「プレママフェス」の一場面だ。ほかに、ファブリックレターの製作や、ソーイングレッスンなどを実施した。フェスのような特別な機会以外でも、神戸本店では産前産後のママやその家族を対象に、時期により変動はあるものの1カ月に約40のプログラムを用意する。

スタジオで開催するマタニティービクス。併設したクリニックの医師らによるチェックの後、安心して参加できる

ひもにワイヤを通して文字を作るファブリックレター製作の様子。撮影の小道具やインテリアとして楽しめる

 人気はバースデーパーティー。月齢の近い子供と家族が集まり、誕生日をお祝いする。自己紹介の後、飾りなどを製作し、フォトブースで写真撮影もできる。予約の枠は毎回すぐに埋まるという。

代官山店のハーフバースデーパーティーでの1枚。この時は赤ちゃんがかぶっている王冠を製作した

◆「好き」が気持ち後押し

 同社は16年の代官山店を皮切りに、横浜元町店、名古屋ラシック店をショールーミング店舗とした。「フォー・ザ・ファースト・1000デイズ」のコンセプトで、妊娠期から2歳を迎えるまでの期間にフォーカスした体験型のプログラムを充実した店だ。神戸本店も同様のコンセプトを軸とし、これまで蓄積したノウハウを結集する。

 もうすぐ1歳になる赤ちゃんを育てる東京在住のママ(30代)は、これまで代官山店の「ハーフバースデーパーティー」やベビーサインなど三つのイベントに参加した。「スタッフの方は子供のあやし方が上手で、居心地よく楽しめた」と話す。

 「好みが似ているママが集まるのでその場で話しやすい」とも。ベビーサインやマタニティーヨガは地域の児童館や公民館でも実施されているが、知り合いがいなかったり、慣れない場所への外出で、躊躇(ちゅうちょ)するママも多い。こうした機会を親しみのあるブランドやショップが提供してくれることで、心のハードルはぐっと下がる。「ファミリアが好き」という気持ちはそれだけで出掛ける動機になり、好みや価値観が似ている人との出会いは、始まったばかりの子育てに弾みをつけている。

 同時に、ブランドやショップへのエンゲージメントも一層高まる。

◆コト発信で興味・関心呼ぶ

 ここ数年、子供服の企業が売り場でワークショップやイベントといったコト発信をする動きが増えてきた。ただ、来店のきっかけにはなるものの、服の実売に結び付きづらいという課題もある。

 神戸本店で実施するワークショップは、2階の子供服売り場の中央に大きくスペースをとった「アトリエ」で行う。デザイナーや技術者の手仕事を見たり、簡単な創作に参加できる。いずれもその時々の子供服のコレクションのシーズンテーマに沿って企画されることが多い。

 インターシャ編みの商品が店頭に並ぶ時期には、ベトナムからインターシャの職人を招いた実演を行った。葉っぱをモチーフにしたコレクションが揃うときは、葉っぱを作ったアートウォールを作るイベントをした。コレクションと関連付けることで、体験後に自然と子供や親の興味・関心が服に向くよう工夫している。今後は、店内のレストランのメニューともリンクさせる予定だ。

 神戸本店は年間売り上げ10億円を見込む。開店した9月から12月までの累計売り上げは、計画を若干上回っている。

子供服売り場中央に設けたアトリエ内の創作のためのテーブルで、実際の商品に使われた生地の端切れを使ったワークショップに熱中する子供たち

◆オンラインと実店舗を連動

 同社は利便性の点からECにも力を入れる。16年には、直営のオンラインショップと実店舗を連動したオムニサービスもスタートした。店頭在庫をオンラインで確認して取り置きができたり、店頭にない商品も店舗で注文すれば自宅に届けてくれる。同サービスに対応するオムニショップは50店にまで広がった。

 現在、ECの売上高は約10億円。全体の売り上げの約10%を占め、さらに高める。ただし、岡崎社長は「デジタルに力を入れるなら、それ以上にアナログに熱を注ぐ必要がある」という。リアル店を充実させる姿勢は今後も変わらない。

◆想定外を提案し可能性広げる

ファミリア神戸本店・太田直美店長

 子供服の買い物では、パパが別の場所で待っている間にママが買い物を済ませたり、試着の時だけお子様を店に呼ぶといったことが多いと思いますが、神戸本店は3世代揃って来店されることも多く、家族みんなで行く価値があると認めてもらえているようでうれしいです。ご出産や誕生日をお祝いする節目に来ていただくたび、ここが大切な日を迎える家族の拠点になりつつあると気付き、単なる買い物の場ではないと実感します。

 イベントで一緒になったお客様同士で連絡先を交換し合ったり、産後のプログラムで一緒だったお客様が、バースデーパーティーで再会を喜ぶ姿を見たり、私たちを飛び越えてつながりができているようです。子供を持つ家族が妊娠中や子育ての不安を解消し、楽しく買い物できる場になればいいですね。

 今は、欲しい情報や分からないことはインターネットやSNSを見れば大抵解決できる時代です。一方で、お客様自身が想定していないことを提案できるのが、リアル店の強み。例えば「うちの子はスプーンを使わない」と言うママに、店内の離乳食が食べられるカウンターで商品のスプーンを試してもらうと、初めてこんなに食べられたと喜ばれることもあります。お子様の成長を体感してもらい、その可能性を楽しく広げるお手伝いをしていきたいです。

ファミリア神戸本店は旧居留地のデビスビルディングの1、2階で、延べ床面積は2131平方メートル。店舗デザインは名和晃平氏、クリエイターのプラットフォーム「サンドイッチ」が監修した


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