外資系ファストファッションの日本市場撤退が続くなか、前期(19年8月期)に過去最高の業績を達成したジーユー。“日本発ファストファッション”として成長を続けてきた同社が、さらなる成長戦略として掲げるのが、「ファッション性と低価格のさらなる追求」「国内外での出店、ECの強化」「海外事業の拡大」だ。
「社会や環境に配慮し、人権を尊重するのは、ファッション企業としての必要条件になっていく」とし、サステイナビリティー(持続可能な)活動にも一層注力する。
柚木治社長は未来のファッション市場をどう予測し、未来に備えて何をするのか。
変革期を迎えたファッション業界
「ファッション業界全体が今、変革の時を迎えている」。今月、都内で行われた事業発表会の冒頭で柚木社長が、そう話した。「地球環境の問題、それからファッションと人々の関係。これらを踏まえた戦略がとても重要」と考える。「大量消費型の社会や生活、そこからどう転換していくのかが課題になっている」。
このことに加え、「消費者のファッションに対する知識、スキルはどんどん上がっている。楽しみ方、着こなし方、買い方、売り方も自由自在。ファッションの自由化、多様化、高度化が起こり、人々が服に求める価値、社会からの要請が大きく変わっている」と今のファッション市場を分析する。
生活者こそファッションの最前線
人々の服との関わり方が変化するなか、まず大切になるのが生活者起点の商品開発だ。消費者のニーズやトレンドに基づいた商品開発は、これまでもジーユーが得意としてきたところだが、これをさらに強化する。「ファッショントレンドの情報発信源がストリートに落ちてきた。今や生活者こそがファッションの最前線」と見る。ニーズとトレンドの分析、それらのデータを元にした商品の企画・開発、店頭演出、マーケティングなどは、「今まで以上に生活者の声、行動に目や耳を傾けることが大事になっている」という。この取り組みを強めることで、ニーズやトレンドのど真ん中を突き、服を買う際に迷いを生じさせない。「選びやすく、着やすい、おしゃれで手入れも簡単な使いやすい商品」を充実させる。“インスタント”こそ、ファストファッションの肝だ。
こうした取り組みを反映している商品の一つが8月に始動した靴の新ライン「ジーユーシューズラボ」。客の声やデータに基づいて商品を開発するだけでなく、日々、履き心地・機能・デザインの改善に取り組んでいる。来春夏は鞄の新ライン「ジーユーバッグラボ」を立ち上げる。
おしゃれで低価格に磨き、990円を拡充
「ジーユーの強みはやはりファッション性と低価格」と柚木社長はいう。この強みをさらに磨くとともに、「生活者起点の商品開発」を実現するため、生産を見直すとともに、工場との連携・協業も強化する。「低価格とはいえ品質も妥協はしない。おしゃれで買いやすい商品を、あくまでも安心できる高い品質で提供する。これが絶対条件」と強調する。
具体的には、主力工場の集約と、それら数社との継続的な取り組みを強化する。これにより、「品質の安定、さらなる応用への対応力がつく」と考える。生産担当者だけでなく、MDやデザイナー、マーケティング担当者も工場に出向き、連携・協業して商品を開発する。工場と対話を重ねながら、長期生産と短期生産のスケジュール最適化も進める。
これまで、生地は中国、縫製は東南アジアという商品が多かったが、生地と縫製を東南アジアに一貫するものを増やし、コスト競争力を高める。商品の内容や販売の時期、消費者のニーズなどに応じて中国、東南アジアの工場を分担・連携・最適化する。ニーズ、トレンドの適格な把握と、素材の開発・集約・備蓄を効率的に行うため、商品の企画、素材のそれぞれで新たな開発チームも立ち上げた。
来春夏物は、定番でベーシックな一部の商品を、素材や品質は変えず、工程の無駄を見直すことで低価格化を実現した。これまで1990円だった、裾がリブのスウェットパンツやカットソーワンピース、ブロードシャツなどが990円になる。
オムニチャネル化が前提の店に
ジーユーは、国内に約400店、海外に約35店ある。「ユニクロ」との比較で、「国内外ともにまだまだ出店余地はある」と見るが、今後は「単なる純増数にこだわらない」。これからの店は、「オムニチャネル化が前提になる」という。現在7%程度のEC比率は、「早期に2ケタ、将来的に30%」を目指しており、「EC化率の上昇とともに、オムニチャネルサービスを強化していく計画」だ。
今後重視する店舗は、「商品の全ラインナップ、リアルを体感できる大型店と超大型店」、「クリック&コレクトが可能な生活導線上、便利な場所にある店」の二つ。スクラップ&ビルドやリロケーションを通じて、「既存店はより未来のファッション消費環境に適した場所に再配置していく」。
海外は成長段階へ
海外は現在、四つの国と地域に出店している。立ち上げたばかりの韓国を除く、中国、台湾、香港は、「前期末時点で店舗レベルでの黒字化を達成した」。「海外で勝負できている感覚がある。成長ステージに入った」という。海外は今期(20年2月期)、約40店まで増やす計画だ。海外の事業を拡大するため、商品コレクションの幅を広げるほか、上海に商品開発の研究拠点として、R&Dセンターを開設する。
海外での販売は順調ながら、「これまではファッション性でいうと少しベーシックに映っていた」という。そうしたなか、「海外においても強い武器になる」と期待を寄せるのが、18~24歳の女性が対象のストリート調「ミックスマニア」と、小学校高学年から中学生の女子が対象のスポーツカジュアル調「アンドラブリー」だ。ミックスマニアは、来年1月に予定する日本での発売に先駆け、中国や香港、台湾ですでに販売している。
東京、ロンドンに次ぐ、世界三つ目の研究開発拠点は、「“世界の成長センター”といわれるアジアの生活者の情報、トレンドをキャッチしていく」狙いがある。「上海だからこそ集まる情報がある。生活者の声、データを収集したデザイナーやマーチャンダイザーが近くの工場に乗り込むなど、情報を物作りに迅速に反映する」考えだ。
(続く)