【この技術がすごい⑥】スパイバーの構造たんぱく質「ブリュード・プロテイン」

2020/05/07 06:28 更新


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 バイオベンチャーのスパイバー(山形県鶴岡市)が開発した「ブリュード・プロテイン」(BP)は、微生物による発酵で作られた人工の構造たんぱく質。「できる限り循環型の社会」(関山和秀取締役兼代表執行役)を目指すなか、自然環境への負荷がより少なく、再資源化しやすい材料の開発に取り組んできた成果だ。

 昨年にはスパイバーの資金調達先で、開発パートナーでもあるゴールドウインが「ザ・ノース・フェイス」(TNF)からBPベースのTシャツとアウトドアジャケット「ムーンパーカ」を数量限定で発売した。21年にはタイで年産数百トン規模の発酵プラントが稼働する予定で、商用化が目前に迫っている。

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◇再資源化しやすく

 同社は関山氏が07年に設立。「生物由来の材料だけで物作りができれば資源を循環させやすい」と考え、生物の重要な構成成分であるたんぱく質に着目。たんぱく質を構成するアミノ酸配列の解析や遺伝子の合成で、たんぱく質を人工的に効率良く作り出すことに成功した。

 スパイバーと聞けば、今も〝人工クモ糸〟を思い浮かべる人は少なくないかもしれない。しかし、昨夏に同社が発表したBPは、数年前に注目を浴びた人工クモ糸「クモノス」とは似て非なるものだ。

 当初、クモ糸の強靭(きょうじん)さがクローズアップされ、「人工的にたくさん作ることができれば、工業的にとても有用な素材になる」と考えられた。同社も人工クモ糸を開発し、15年秋にムーンパーカのプロトタイプを発表。世間の注目を浴びた。しかし、その時点では商品化に向けて大きな壁があった。クモ糸は水に触れると数十%縮む〝超収縮〟という特性があり、物性が変わってしまう。クモ糸の遺伝子に基づくクモノスもその特性を持っていた。当時は「後工程で改善できると考えていた」ものの、結局は製品が水にぬれた場合の寸法安定性を品質基準内に抑えることが難しく、発売を延期することになった。

粉末状の「ブリュード・プロテイン」。溶媒に溶かして湿式紡糸で繊維化するなど多様な素材開発を進めている
紡糸工程

◇クモ糸にこだわらず

 その後、クモ糸にこだわらない研究開発に大きくかじを切る。「ある特定のアミノ酸配列のたんぱく質にこだわると、物性や生産性などほかに必要なことを満たせなくなってしまう」とし、基礎研究からやり直した。その基礎研究のために必要な要素技術とインフラを一つひとつ地道に整えた。仮説を基に設計した遺伝子が、必要な特性を持つたんぱく質を作るのかどうかを、速いサイクルで効率的に検証できるようになったのはこの2、3年のことだ。

 仮説を基にコンピューター上で遺伝子を設計するとともに、その遺伝子の特性を評価するためにDNAの合成技術も確立した。効率良くたんぱく質を作るためにDNAを組み込む微生物の選定や、その培養方法、できたたんぱく質の最適な精製方法、繊維なら紡糸の際の最適な加工条件など各プロセスで仮説を立てた。独自に設計して最適化した設備を使った検証結果をフィードバックし、また仮説、検証を繰り返し、ビッグデータを蓄積していく――。その仕組みがソフト、ハードともに整った。これにより、超収縮を生み出すアミノ酸配列の特徴を推定して、アウトドア用品に必要な機能を残しながら、超収縮という特徴だけを遺伝子から取り除くことに成功した。

 現在、BPで多様な素材開発を同時並行で進めている。2月には国際素材見本市プルミエール・ヴィジョンパリに初出展。ムーンパーカや織り・編みの生地サンプル、開発中のフェイクファーなどを披露した。欧米を中心に世界的な環境配慮意識が高まるなか、「脱石油由来製品」「脱アニマル」の素材として注目を集めた。

昨夏に「ムーンパーカ」の発表会見が大々的に開かれた

 ほかにも、フリースや合成皮革、中わた、ファスナー、ボタンといった副資材も含めて開発中という。アパレル分野以外では自動車など輸送機器用途の素材開発、アデランスとは人工毛髪の研究開発も進行中だ。

 コストダウンは喫緊の課題だ。コストについては現状、BP1キロ当たり100ドルを切る水準に到達したようで、「50ドルを実現できれば市場は大きく広がる」と見ている。

 クモ糸が前提でなくなった今、遺伝子の設計パターンは無限と言えるほど広がった。ただし、関山氏は「海岸の砂粒一つ、宇宙全体の原子の中の一つというくらいの組み合わせしか試すことができていない」と指摘する。〝無限の可能性〟を秘めた素材に期待は高まるが、無限を追求する難しさをどうクリアしていくかが大きな課題になる。

繊維をはじめ多様な素材を開発
(繊研新聞本紙20年3月26日付)

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