《フレッシャーズの皆さんへ》新しい発想と情熱の緯糸で、無限の織物を

2023/04/03 08:00 更新


 この春、繊維・ファッションビジネス業界の一員となられた皆さん、おめでとうございます。オンライン授業が大半で制限の多い学生時代を過ごされた皆さんにとって、自由で開かれた社会人生活の第一歩には、格別な思いがあることでしょう。

 皆さんが志望した理由は、それぞれ異なるかもしれませんが、この業界の特徴について改めて見ていきましょう。まず、扱っている商品は、私たちの生活に身近で欠かせないものです。基本的には、体に密着する製品と言っていいでしょう。全く同じ体形や好みの人が存在しないのと同様に、供給する企業やブランドも多岐にわたります。つまり、市場は独占も寡占もされていません。それは同時に、資金が少なくてもチャンスのあるビジネスということを意味します。アイデアや創造性で多くの成功者を輩出してきた業界です。必需品だけでなく、暮らしの彩りを豊かにするアイテムの可能性に限界はありません。

 とはいえ、歴史が長く、成熟・飽和市場と言われる日本は人口減少に向かい、厳しいのではないかと不安な方もいるかもしれません。しかし、安心してください。世界的に見れば、繊維・ファッション市場が成長市場であることは間違いありません。そのため、糸・わたの原料から織物や編み物、アウターやインナー、その他多種多様なアイテムまで、複雑なサプライチェーンの各段階に携わる先輩たちが日々、様々な工夫を凝らしながら仕事を続けています。

 こうした一人ひとりの仕事の連なりは、自由で平和な社会を前提にしています。逆に言えば、繊維・ファッションビジネスは、自由や平和がなければ発展できません。残念ながら、いったん戦争が始まってしまうと、簡単には終わらないことを目の当たりにしている私たちですが、この業界は存在理由として平和を求め、平和に貢献していく産業であると自信を持って言えます。

 「世界史という織物の経糸は理念であり、緯糸は人間の情熱である」。ドイツの哲学者ヘーゲルは、そう例えたそうです。繊維の世界から少し専門的に説明すると、織物を作る時には、まず機械に経糸をしっかり張って整え、その糸と交差させて緩まないように緯糸を端から端まで通していきます。最終的な風合いには、経糸の影響が大きく出ます。

 つまり、人間は時代や社会の諸条件に規定される面があるものの、自らの情熱と行動によって社会に働きかけ、互いに作用し合って彩り豊かな歴史を形作っていく。こんな風に言えるのではないでしょうか。

 もともと、繊維・ファッションビジネスの歴史は、自由と平和を謳歌(おうか)する美しい織物です。ここに加わる皆さんの新しい発想や情熱という緯糸によって、もっと厚みを増し、見たこともない色合いや触感の織物が生み出され、変化し続けることが楽しみでなりません。

 繊研新聞社は75年間、この業界の一番のサポーターとなれるよう努めてきました。不十分ではありますが、これからも皆さんと一緒に歩んでいきたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。

(編集局長・若狭純子)



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