変わる食料政策 「農政の憲法」改正へ(日本食糧新聞社・本宮康博)

2024/04/02 12:30 更新


審議会会長らから最終答申を受けとる野村哲郎農相(右、昨年9月、農水省内で)

 日本は食品やエネルギーを中心に物価高が到来し、バブル後の長期デフレ経済から脱しようとしている。一方この間、所得格差は拡大し、大幅な円安転換は値上げラッシュを招いて家計を圧迫し続けている。超高齢化がさらに進むなか、飲食店の減少や大型商業施設の郊外立地化により、都市部でも食品アクセス問題が深刻化。また、子供食堂の激増にみられるように、貧困問題は子供の栄養不良にもつながっている。

「農政の憲法」改正へ

 こうした中、政府は2月下旬に食料・農業・農村基本法の改正法案を閣議決定し、国会に提出した。農林水産省が食料政策を推進する上での基本理念を定めるもので、個別法の根拠となる「農政の憲法」ともいわれる。99年の制定以来、初の改正となる。

 基本法制定時の社会経済から内外の環境は大きく変化した。特に気候変動や生物多様性といった食をめぐる喫緊の課題、世界人口の増加に加え、米中対立やウクライナ危機など紛争の深刻化による需給バランスの変化、そして国内の少子高齢化や物価高による食品アクセスの問題など、現行法が想定しない状況に対応する必要があり、その見直しに多方面から注目が集まっていた。

 改正の柱は「国民一人一人の食料安全保障」を明記した点。国内農業生産の拡大とともに輸出の促進を図ることで供給能力を維持し、不測の事態に備えるべきとした。また「食料の合理的な価格の形成」を重視し、農業生産者・食品事業者・消費者など食料システム全体で、持続的な供給に要する合理的な費用を考慮すべきと規定。さらに「環境と調和のとれた食料システムの確立」とし、各段階の環境負荷低減を求めた。

社会経済的な視点

 注目したいのは食料安保だ。改正法案では食料安保を「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態」と定義した。だが、有識者や農業から消費者にいたるサプライチェーン各段階の広範なメンバーで組織する審議会の最終答申では、これを「国民一人一人が活動的かつ健康的な活動を行うために十分な食料を、将来にわたり入手可能な状態」と定義していた。つまり法案では〝合理的な価格〟の形成を前面に打ち出し、国民の視点に立った表現が希薄化されてしまった。

 とはいえ〝国民一人一人〟という重い文言が残ったことは、食料政策の転機を象徴している。農水省ではこの文言について、SDGs(持続可能な開発目標)の流れを念頭に置いたものだと明言している。これまでのように供給側の論理だけでなく、食品アクセスを末端まで行き渡らせるという社会経済的な視点を導入した意義は大きい。

(日本食糧新聞社・本宮康博)



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