【ファッションとサステイナビリティー】ワールドの「サスティナビリティプラン」 衣料品廃棄をゼロ化、他社商品の「循環」も進める

2022/08/30 05:30 更新


 ワールドはこのほど、持続可能な社会の実現を目指す「ワールド・サスティナビリティプラン」を公表した。温室効果ガスの削減では、30年までに自社負荷で17年度比50%の削減を、〝見える化〟を進めている間接負荷については、商品1点当たり換算で21年度比20%削減する目標を掲げた。また、ファッション業界の課題となっている過剰在庫については、直近の目標として、25年までに「残在庫廃棄のゼロ化」に取り組む。ロス・ムダを極小化する「ワールド・ファッション・エコ・システム」の構築を見据えた各サーキュラー事業では、自社にとどまらず業界全体の商品の「循環」を進めていく。同プランの策定を背景に、8月上旬に発表された環境省の「大企業のサプライチェーン全体の脱炭素化推進モデル事業」に選ばれている。

 「当たり前だが作り過ぎない。余計なものを仕入れない。できるだけ引き付けて物を作るのが一丁目一番地」とサスティナビリティプランをまとめた高橋啓介グループ執行役員SDGs推進室室長。21年度の衣料品の残在庫廃棄は約51万点と公表しているが、年間生産総数比では1~2%前後という。この間、仕入れ・在庫コントロールによる粗利益率の改善と残在庫の圧縮を進めてきた。今後もデジタル活用、国内生産の強化による生産リードタイムの短縮などに取り組み、正価販売率の向上や売れ残りの削減を推進する。

在庫を紙や素材に

 また、アウトレットストアやファミリーセール、オフプライスストア「アンドブリッジ」といった既存流通での販売に加えて、裁断して違う商品に変えるアップサイクルや染め直しにも取り組んでいる。7月15~18日、ワールド北青山ビル1階で開催した「ラグタグ・フェス」では引き取った商品をグループ工場のワールドインダストリー富山で再染色した商品も販売した。まだ少量ながら百貨店ブランドでも同工場を活用した染め直し販売にも着手している。このほか、残在庫を紙や素材化する「実験」も進めているという。売り切れなかった商品のこうした再活用を含めて、廃棄ゼロ化を実現していく考えだ。

「ラグタグ」で引き取った商品を再染色し、「色と富山」をテーマにしたイベントでも販売

 なお、「廃棄ゼロ」の事業として、「ポケモン」や「ワンピース」など何百種類のキャラクターをシャツなどにオンデマンドプリントで製品化する完全受注生産の「オリジナルスティッチ」にも取り組んでいる。

年間1000万点回収へ

 「作り過ぎない」「廃棄しない」取り組みに加えて、「そもそも作らずに循環させる」サーキュラー事業も拡大していく。19年8月にゴードン・ブラザーズ・ジャパンと合弁会社アンドブリッジを設立し販売網を広げているオフプライスストア「アンドブリッジ」は現在、ニューポートひたちなか(茨城県ひたちなか市)、川崎ダイス(神奈川県川崎市)などリアル店5店とECを運営している。ワールドの商品も2割程度あるが大半が他社製品で、ファッション商品だけでなく家具や食品など取扱品目も拡大している。「今後3年間で30店舗体制」を目指している。

30店体制を目指すオフプライスストア「アンドブリッジ」(ニューポートひたちなか店)

 ユーズドセレクト店「ラグタグ」を運営するティンパンアレイは、新たな事業展開を検討している。ラグタグではラグジュアリーやデザイナーブランドなどを主体に買い取り・販売しているが、アウトドアやスポーツのハイエンドブランドのカテゴリー化やリサイクル業者に渡していた値段がつかずに引き取っている服の再販など「領域を広げられる可能性がかなりある」とみている。また、調達や真贋(しんがん)鑑定、簡易なリペア、保管など二次流通特有の機能をプラットフォーム化して「ブランド公式リユース」を開始する企業・ブランドを支援する事業も検討中だ。

 09年から継続している衣料品引き取りの「エコロモ」キャンペーンで年間約100万点、アンドブリッジやティンパンアレイもそれぞれ年間約50万点を〝回収〟している。年間計約200万点を30年には衣料品以外含め年間1000万点まで増やす目標を掲げた。これらを再販や原料リサイクルなど「宝物」として活用する考えだ。

ロールモデル創出

 温室効果ガス削減については「一丁目一番地はスコープ3」との認識だ。衣料品の生産から納品(上流)までのCO2(二酸化炭素)排出量はすでに概算把握しており、精緻(せいち)化を進めながら流通(下流)や衣料品以外の事業を含め「5年以内に一定把握」するスケジュールを公表している。環境省のモデル事業は、こうしたサプライチェーン全体で中長期削減取り組みの目標を設定している企業などを対象に、「目指す姿の特定」「具体的な排出削減施策の検討」「実行計画の策定」などに取り組むもの。ワールドのほか、カルビー、ソフトバンク、高砂香料工業の4社が参加企業に選ばれた。サスティナビリティプランの実行とともに、業界全体の脱炭素化のロールモデルの創出にも取り組むことになった。

高橋啓介ワールドグループ執行役員SDGs推進室室長

 ■高橋ワールドグループ執行役員SDGs推進室室長(ネオエコノミー事業本部のほか複数の役職を兼任、6月29日付でラクサス・テクノロジーズ社長に就任) 「(プランは)できるだけ分かりやすく、進んでいるところ、遅れているところを含めて正直に開示した。アパレル業界の取り組みは遅れていると言われている。ファッションは時代の最先端のはずなのに、このままでは格好悪いと言われる危機感がある。ワールドだけでは出来ないことがいっぱいある。皆さんと一緒に取り組んでいきたい」

(繊研新聞本紙22年8月30日付)

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