自分たちが出来ることから始めよう――。東京ブランドが、小売店やエンドユーザーとサステイナビリティ―(持続可能性)を共有する形を築いている。デザイナーブランドの多くは、国内の産地の技術を生かし、出来るだけ長く着続けて欲しいとクリエイションに向き合ってきた。そもそも過剰な在庫を持つ意識はないが、社会とともに成長する過程と捉えて新たな取り組みを始めている。
コミュニティー型流通
デザイナーの堀畑裕之さんと関口真希子さんが手掛ける「まとふ」は、1年ほど前、卸売りも含めて完全受注生産へと舵(かじ)を切った。19年に国内外の手仕事や土地の文化を伝えるプロジェクト「手のひらの旅」を始め、「一着の服に込められた歴史や作り手の思いなど本当の意味を伝えていく」なかで、ビジネスそのものも新しいステージに移行した。かつてはファッションウィークでショーを発表し続ける活動に意味を感じていたが、10年ほど前に表参道に直営店を開設、顧客とのコミュニケーションを重ねて行きついた答えの一つだ。「社会の在り方とともに、コレクションの見せ方や売り方も、フレキシブルに変えていくべきだと思う。半年で商品価値を下げて在庫を処分するアパレル業界の慣習は50年来変わっていない。今の消費や社会で求められていることに向き合って、バージョンアップしていかないと」と堀畑さん。
卸売りを続ける一方、直営店では当初から、新作の発表後に予約販売会を行ってきた。日本の美意識を反映した洋服に魅了されて来店するファンは徐々に増え、直営店の売上比率は半分近くを占める。完全受注生産に切り替えたきっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大だ。バイヤーは東京の展示会に来場することが出来ず、状況が変わる見通しも立たない。そういった中、「取引先にとっては半年先を予想して仕入れることより、サンプルを送って顧客に予約販売してもらう方が確実で、無理がないのではないか」と、全国の取引先を2カ月かけてリレーして注文を取る〝コミュニティー型の流通〟に移行した。
今、小売店への卸売りは行っていない。自社で開く予約販売会(EC含む)に加えて、予約販売に賛同する〝パートナーショップ〟は、顧客に新作のコレクション全てを見てもらうイベントを開いている。在庫リスクを持たない分、従来の卸売りとは掛け率は異なるが、伝統工芸も取り入れた付加価値の高い製品の提供も可能になった。「売ることよりも、文化や歴史、工芸的な価値を共有し、学びや気付きの場を大事にして成長していきたい」と関口さん。以前と比べ、コレクションの型数は半分ほどに絞っているが、結果として、生産数量は伸びている。現状のパートナーショップは10件で、販路や業態を問わず、共感を大事にする企業や組織の参加を募っている。
可視化して気付きを
深山拓也さんと上島朋子さんがデザインする「ニアーニッポン」は、22年春夏のコレクションから物作りのサステイナビリティ―を可視化する姿勢を明確にした。きっかけは、SDGs(持続可能な開発目標)について学ぼうと会社で参加したセミナーだ。「カードゲームを通じて自分たちの行動を振り返り、サステイナブルな考え方に矛盾があっても、出来ることから始めることが大事だと気付かされた」と深山さん。ブランドを始めて20年近くの活動は、国内生産を軸とした卸売りで、サステイナブルに当てはまることは多い。その工程を消費者に伝える12のオリジナルアイコンと、QRコードを表記した下げ札を作り、22年春夏から全ての製品に付けて販売する。「基本はデザイン重視で洋服を楽しんで欲しい。ただ、選んだ商品を通じて、自分たちの取り組みを伝えることが、関心を持つ機会になると思った」。QRコードを読み込むと、ニアーニッポンのサイト内のサステイナビリティーのページにリンクし、国内産地の具体的な工程を確認することもできる。
この2年でコレクションの型数も「似たようなアイテムを削って」少しずつ絞り、40型ほどに抑えることもできた。結果として受注数は落ちず、「むしろ受注数がまとまって効率良く生産できる」ようになり、メリハリのある物作りへと価値を高めることが出来ている。22年春夏コレクションでは新たに、サステイナブルシリーズをスタート。伊マンテコ社が生産したリサイクル70%・オーガニック30%のコットンのツイルなど環境に配慮した3素材で5型を商品化。生地はシーズンを超えて採用し続ける考えだ。
(繊研新聞本紙21年9月29日付)