スポーツシューズ業界で、温室効果ガスの排出削減を目指す取り組みが加速している。特に原材料の選定・調達や製造段階での見直しに注力している。製品のライフサイクル全体でどれだけの温室効果ガスを排出しているかを測定するとともに、各社が持つ知見を公開・共有し、温室効果ガス削減に向けて協働を呼びかける動きも活発化する。
ネットゼロ可能に
オールバーズ(米サンフランシスコ)は今春、「CO2(二酸化炭素)排出ゼロのシューズ」をうたった新モデル「ムーンショット」を発表した。同シューズの原料や素材には、CO2排出を従来のものより少ないものを選ぶだけでなく、CO2を吸収する要素もあるため、「最終的にはネットゼロになる」という。6月にデンマーク・コペンハーゲンで開催されたグローバルファッションサミットで披露。24年春の販売を予定している。
オールバーズでは、ネットゼロを可能にする要素として、以下のものを挙げる。①排出する温室効果ガスよりも多く吸収する再生型農業で生産されたメリノウールのアッパーへの使用②約70%がバイオ由来成分で構成されたフォームのミッドソールへの採用③ハトメなどの成型部品は温室効果ガスであるメタンを微生物の力でポリマーに変換できる技術を活用したこと④包装にはサトウキビが原料のポリエチレンを使い、輸送時のスペースや重量も削減⑤バイオ燃料での海上輸送――などだ。これ以外にも部品数を減らすため、アッパーとインソールを一体化させたオーバーラスト構造や変色に強いグレーを採用する。また、港から配送センターまでの輸送には、EV(電気自動車)のトラックを使う予定という。
サトウキビ由来
アシックスは温室効果ガス(カーボンフットプリント、CFP)排出量を最も低く抑えたとして、22年9月に発表した「ゲルライトスリーCM1.95」を、今秋発売する。
同シューズの1足当たりのCFP排出量は、1.95キログラムCO2eで、業界平均の14キログラムCO2eを大きく下回る。アシックスではCFP削減にあたり16もの削減施策を実施。特に注力したのは、ミッドソールと中敷に使うフォームの開発だ。クラレのサトウキビなどを原料としたバイオベースポリマー「セプトンBIOシリーズ」などを配合し、温室効果ガスの排出を実質的にマイナスに保ちながら、品質も維持できるようにした。サトウキビ由来の原料を活用することで、その成長過程で吸収するCO2量が、フォーム材作製時に由来するCO2排出量より大きいため、フォーム材としてカーボンネガティブを実現した。
スニーカーの重さは、両足で463グラム。パーツ数を従来品より3分の1の量の約20に減らし、軽量化を実現した。この結果、素材調達・製造段階で、CFPの排出量を従来品の平均よりも約80%、輸送段階では75%削減に成功したという。CFP排出量の測定やその削減方法などは、米マサチューセッツ工科大学と共同で研究した。
アシックスでは、7月に発売したランニングシューズの「ゲルカヤノ30」から、CFPの表示も開始。今後、この取り組みを拡大させていく。また、CFPに関する特設ページを開設したほか、ゲルライトスリーCM1.95の開発で得た知見を活用・進化させた算出方法をウェブ上で公開している。
社内外で連携強め
こうした〝CFP削減シューズ〟の製品化には、靴として求められる機能・品質とのバランスが求められる。そこでアシックスはサステナビリティ部だけでなく、開発やデザイン、研究、生産、SCM、マーケティングなど多くの部門が連携し、「品質に妥協せず、CO2排出量を低くするための意見を出し合い議論した」(サステナビリティ部環境・コミュニティチームの三好はるひさん)という。
他社との連携も必要だ。ネットゼロカーボンシューズを出したオールバーズも、「このシューズは私たちの仕事の集大成だが、気候危機の特効薬ではない」(アーツバーズ共同創業者兼共同CEO=最高経営責任者=のティム・ブラウンさん)とする。そこで、CO2排出ゼロは1社では実現できないとの考えから、ウェブサイトには同シューズに関わるツールキットを公開。「あなたの力が必要です」と、他社にその活用を呼び掛けている。
(繊研新聞本紙23年8月30日付)