大量生産・大量廃棄が問題視される繊維・ファッション産業。消費低迷やコロナ禍を経て、従来のビジネスモデルからの脱却しようとする機運が高まってきた。無駄な物を作らない、作ったものを最後まで売り切るためのソリューションとして、EC・店舗の在庫問題解決クラウドサービスのフルカイテンと、オフプライス業態で在庫削減・廃棄ロスに取り組むアンドブリッジの取り組みを聞いた。
在庫運用効率向上で構造改革を
フルカイテン・瀬川直寛社長
世界的なサステイナブル社会に向けた潮流や、国内市場における急速な人口減少、可処分所得の減少に伴う需要縮小を背景に、従来の在庫過多を前提とした売り上げ優先のビジネスモデルの見直しが迫られている。EC・実店舗の在庫問題解決クラウドサービスを提供するフルカイテンは、「必要な商品が必要な量だけ流通する」〝在庫運用効率〟の重要性を強調する。
■粗利重視へ転換を
大量生産・大量在庫は以前から業界全体に横たわる課題として認識されていましたが、コロナ禍の襲来によって一気に喫緊の問題として顕在化しました。コロナ禍以前からアパレル業界は、売る力、もうける力を落としており、多くの企業の営業利益率は数%の水準に落ち込んでいます。アフターコロナにおいても、従来型のビジネスモデルを前提としていては川下企業がますます体力を無くすでしょうし、サプライチェーン全体としても厳しい状況に追い込まれることになるでしょう。
ですから、業界全体として早急なビジネススタイルの変化が不可欠だと考えます。縮小していく市場のなかでトップライン(売上高)を伸ばすこと自体が論理的に矛盾してます。物量を背景に売り上げを確保するのではなく、商品の付加価値を高めることと、綿密なデータを基にした販売手法のスキルを向上することで、粗利益重視の経営に切り替えることが必要ではないでしょうか。
それに向けては、まず付加価値を上げるために製造原価率向上に振り切っていく。これと合わせて、「1着当たりの粗利益」を増やすために、在庫リスクを事前に検知できる在庫分析力を付ける。いわば「在庫の運用効率」を向上することが必須になります。売り上げではなく粗利益の前年対比を事業計画とすれば、過剰生産をせずにサステイナブルな経営に転換できると考えます。
フルカイテンのクラウドサービスは独自に考案した在庫実行管理(IEM=Inventory Execution Management)理論を応用したシステムであり、導入企業では客単価、消化率、回転率などが向上しています。今年4月から提供をスタートした新サービス「フルカイテン・バージョン3」システムは在庫リスクをX軸、商品の粗利益貢献度をY軸で表現し、商品の在庫をSKU(在庫最小管理単位)ごとに2軸評価するなどして、更に精度の高い在庫管理を可能にしています。
■全体最適に向けて
今年からは新たに、商社や大手テキスタイルコンバーターにおける当社の在庫管理システム導入が進展しています。今年中に実証実験を行い、来年には本格稼働する計画です。同システムを導入する各社の製造・発注・販売などのデータを集約してインサイトのあるデータに分析するものです。商社やテキスタイルコンバーターと協働した「生産調整サービス」を、アパレル・小売りに向けて提供することで、サプライチェーン全体の在庫の量を大幅に減らすことができます。この在庫管理システムの導入が業界に広がることで、個社の部分最適から業界における全体最適に発展することができると考えています。
現在、各社の社長、会長などトップの方々とシステム導入に向けたお話しをさせて頂いていますが、トップマネジメントの方々の多くが業界全体の将来のことを深く考えていることに感銘を受けています。余剰生産を減らすために、個社が属するサプライチェーンの貢献だけではなく、業界全体のサプライチェーンに対していかに資するかを皆さん真剣に考えています。
そのなかでフルカイテンは第三者的な中立の立場を生かして、各社をつなぐ、「スーパーサプライチェーン構想」を実現したいと考えています。
廃棄しない循環型の産業に
アンドブリッジ・松下剛社長
様々なメーカーから余剰在庫を集め、一つの店内で販売するオフプライスストア。欧米が先行した業態で、日本でも近年参入が増えてきた。19年にはワールドとゴードン・ブラザーズ・ジャパンが折半で出資してアンドブリッジを設立。ファッションをロスなく作り・届ける「ワールド・ファッション・エコシステム」の構築を目指すワールドの方針と店舗運営のノウハウ、ゴードンの商品調達力を掛け合わせ、ファッション産業の再循環を目指す。
■商習慣に合わせ
日本はエリア別に文化も商圏も細かく分かれています。細かな商圏に対してアパレルメーカーは、販路やターゲット別にきめ細かく対応してきました。結果、需要以上の生産をすることになり、売れ残った商品はバーゲンにかけたり、サンプルセールやファミリーセール、アウトレットなどで処分してきました。
私自身アウトレットに長く携わっており、以前からアパレルメーカーやデザイナーが魂込めて作った良い商品が倉庫に眠っていたり、廃棄されている状況を解決したいと考えていました。そんな中でゴードン・ブラザーズ・ジャパンと余剰在庫問題について話し合う機会があり、余剰在庫を換金し、利益に変えていく〝日本流〟のオフプライス業態作りに踏み出しました。
まだ鮮度のある商品の余剰在庫を様々なメーカーからセレクトし、提供するのがオフプライスストアです。買い取りか消化仕入れかはメーカーが選択できます。日本の商習慣もありますし、それぞれ長所と短所があります。当社としては、どちらにせよ、1社1社と長く付き合っていきたいと考えています。
■大事なわくわく感
良い品質の商品をお買い得価格で提供するだけではディスカウントストアと違いがありません。アンドブリッジでは店舗内にはコーヒーサーバーを置き、ジャズをかけ、宝探しのようにわくわくしたり、居心地よく買い物を楽しめる環境を作っています。ローコストで運営することも必要ですが、陳腐では見破られてしまいます。ブランドの価値を棄損しないような店作りが欠かせません。
商品はカテゴリーやテイスト別に再編集します。サンプル品などの一点物もあれば、以前であれば廃棄していたような不良個所のある商品もそれを明記して販売しています。こうした一点物の商品は非常に良く売れます。
オフプライスストアで良い商品と出合ったことをきっかけに、ブランドのファンとなり、プロパー店へとつながることもあります。近隣にあるプロパー店を尋ねられるケースも多いです。
参加ブランドは増加しています。同業のライバルでもありますが、循環を生み出すために協業することは、産業の未来を作るためにも必要なのではないでしょうか。
コロナ禍を経てファッション産業は以前のような大量生産から脱却する動きが出ています。もしかしたら今後、ファッションの余剰在庫が減るかもしれませんが、ファッション以外の日用雑貨や化粧品、食料品など廃棄ロスが出る業種は数多くあります。アンドブリッジでは取り扱うカテゴリーは限定せず、価値ある商品を、廃棄ロスなく循環させることを追求します。
今後、他社からオフプライスへの参入もあると思います。全体に話題になり認知が高まれば、オフプライスのパイが増え、商品の再循環・換金、商品の出合いの場が大きくなります。結果として産業のロスの再循環の大きな渦が出来てくるのではないでしょうか。
(繊研新聞本紙21年6月16日付)