大手紳士服専門店ではSDGs(持続可能な開発目標)という言葉が定着するかなり前から店頭での不要衣類の回収サービスを続けてきた。ただ、当時は下取りによる割引クーポンの配布など来店動機を作り出す販促施策の側面が強かった。それでも25年以上にわたり、環境負荷を軽減する循環型の取り組みを継続してきた。ここ数年のサステイナブル(持続可能)な意識の高まりを背景に、各社、今秋から回収した衣料をリサイクルしたウール商品の開発にも力を入れている。
ウールコートを開発
青山商事は、98年から店頭で不要になった衣類の回収に取り組み、2022年度は合計約350トンを回収した。また、23年10月からはリサイクリングボックス「ウエアシフト」を設置し、回収だけでなく、衣類から衣類への循環を目指した取り組みを推進する。
同社は、「下取りサービス」として店頭で不要になったスーツやドレスシャツなどの回収を進めてきた。それに加え、昨今のSDGsへの取り組み意識の高まりから、お客様がより気軽にエコ活動に参加できる回収方法として、今秋から「洋服の青山」に加え「スーツスクエア」「ザ・スーツカンパニー」含めた全国726店(23年9月末時点)でボックス「ウエアシフト」を設置している。
今秋冬からは、回収した衣類などの一部をリサイクルした商品を開発し、「洋服の青山」全店と公式オンラインストアで販売を始めた。
衣類の製造過程で発生する落ちわたや切れ端などの残糸を再度繊維にした反毛に加えて、同社で回収したスーツなどの一部をリサイクルしたサステイナブルなウールコートを企画した。表生地には、バージンウールを使用する際に必要となる染色工程がほとんど不要なため、通常の生地と比較し水の使用量を約79%、CO2(二酸化炭素)排出量は約86%を削減した。
さらに、裏地には廃棄されたペットボトルをリサイクルした再生ポリエステル素材の使用に加え、サトウキビやトウモロコシから作られた植物由来のボタンを採用するなど、エコ素材にこだわった。
また、18年から店頭で回収したスーツ等の一部をリサイクルして防災毛布を作製している。全国47都道府県に営業店を展開する同社として、被災の経験から災害対策に取り組む地域住民に少しでも役立てればと、19年から自治体へ寄贈している。
廃棄せずに再利用
AOKIでは、96年に日本で初めて不要になった衣類を回収する「AOKIウール・エコ・サイクル」プロジェクトを、東亜紡織とスタートした。「限りある資源を大切に、有効に使うこと」を使命とし、これまで毎年平均20万着(約250トン)の着用しなくなったウール製品(スーツ・礼服)などを店頭で回収し、車の吸音材といった産業資材などにリサイクルしてきた。22年10月からファッションロス(廃棄される衣類)の問題に対応するため、伊藤忠商事とエコミットが運営する服の回収サービス「ウェア・トウ・ファッション」に参画し、店頭での回収を開始した。さらにジェプランが運営する「ブリング」と提携し、ポリエステル製品の回収を含めた、AOKI・オリヒカ店頭での衣類回収プロジェクトの総称「オカエリエコプロジェクト」として新しいスキームに取り組む。
アパレル産業において、「廃棄される衣類の削減」が大きな課題の一つになっている。課題解決に向けた身近にできるアクションの一つとして「不要な衣類を回収しやすくすること」が挙げられる。着用しなくなった服をごみとして処分するのではなく、回収に出すことで、資源として再利用することが可能になる。
今秋冬、AOKIでは初めて、下取りで回収したスーツや礼服などのウール製品をリサイクルし、新しくシューズへと生まれ変わらせることに成功した。「ウールエコシューズ」はアッパー素材に、AOKI店舗で回収したウール製品をリサイクルした糸を使用したサステイナブルなアイテム。素材の強度不足を補うためリサイクルポリエステルを混紡した。開発段階ではシューズに適した強度のある糸作りが困難で、アッパー用生地が完成するまで1年かかったという。加えて、透湿防水フィルムや空気循環ソールを採用するなど、実用性にもこだわった。
今後も「衣類回収の拠点として資源の再利用に努めると同時に、サステイナブルな社会の実現に向け、資源を有効活用するための商品開発に力を入れる」考えだ。
(繊研新聞本紙23年12月26日付)