昨今、様々な商品の開発・生産に欠かせない視点は、エコフレンドリーやサステイナビリティー(持続可能性)。ところが、多くのブランドには掲げる理念や方針と現実の間にギャップが存在する。そう指摘するのは、グローバルスポーツブランドなどの靴開発に携わり、最先端の動向を知るWeDoイノベーション(ベトナム)でディレクターを務める紅真次郎氏。世界的なサステイナビリティーの潮流の中で、靴を取り巻く生産現場の動向と課題を聞いた。
エコフレンドリー、サステイナビリティーは決まり文句のように使われますが、靴を生産するベトナムやインドネシアなどの現場では、エコフレンドリー、サステイナビリティーという言葉が全く聞こえてきません。実際に物を作っている現場では、相変わらずコスト最優先。ほんの一部のグローバルブランドを除き、企業が掲げるエコフレンドリー、サステイナビリティーに関する企業理念や経営方針などにある考え方と、生産現場がリンクしていないのです。例えば、プラスチックごみの削減は世界規模の課題ですが、多くの企業がそこに徹底して取り組めていないのが現状です。
靴に使われる部材のうち、最もプラスチックごみが出る部材の一つはヒールカウンター。従来の一般的なヒールカウンターは、シート状の板を半月状の金型で抜き、端材はごみになります。当社の調べでは30%の部分が端材です。1ヤードのシート当たり40足分のヒールカウンターを抜き出すとして、日産10万足を作る工場なら、2500ヤードのシートの30%がごみ。休業日を除き年間で285日排出すると、855万足分のシートを捨てている計算になります。
一方、当社には「ゼロウェイスト・ヒールカウンター」という商品があります。柔軟さと高い強度が特徴な上、製造方法を工夫し廃棄物を出さない。機能性と環境配慮性の両方の使用価値があると考え、スポーツブランドを中心に提案をしています。
これは象徴的な事例ですが、ある日本ブランドの生産を請け負う工場にヒールカウンターを提案したところ、「現在使っているヒールカウンターの価格と比べて倍もする物は使えない」との回答でした。確かにブランドから生産を委託された工場にとっては、指定されたコストの範囲内で作ることが役割です。
しかも、ヒールカウンターは表からは見えず、製造コストに占める割合が非常に小さなパーツ。倍の価格を払えないというのは、彼らの立場からすれば当然かもしれません。ブランド側にとっても、そのようなパーツに興味がないかもしれないし、作る時にどれほどのごみが排出されるのか考えたこともないでしょう。
ここで言えることは、企業・ブランドがコストでしかサプライヤーをコントロールしていないということではないでしょうか。エコフレンドリー、サステイナビリティーを企業理念、経営方針に掲げるなら、一つひとつのサプライヤーにまでその理念や方針を浸透させるようディレクションをする責任があるのではないかと思います。
私たちの考えに共感してくれる日本のブランドも少しずつ増えてきました。ゴールドウインの「ザ・ノース・フェイス」、コンバースジャパンの「コンバース」、デサントの「デサント」などが一部の新商品で採用を決めました。私たちは独自技術を通じ、エコフレンドリーでサステイナブルな物作りに貢献していきたいと考えています。
(繊研新聞本紙20年8月24日付)