名古屋大学発のスタートアップ企業、TOWING(トーイング)は、独自に開発した高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」の製造・販売を通じて、持続可能な農業の実現や環境問題の解決を目指す。宙炭を導入した農地は土壌微生物の働きが活発で、通常は何年もかかる土作りが1カ月ほどで可能になるため、有機栽培への転換も短期間で完了する。サステイナビリティ―への関心が高まる繊維・アパレル産業でも、綿花に代表される天然繊維原料の栽培への活用など連携の可能性が広がっている。
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宙炭は、月面基地での食料問題の解決を目指し、開発が始まりました。宙炭の「宙」には私たちの宇宙農業への思いが込められています。一方で、この技術を地球上の農業に導入すれば、持続可能な農業の実現、温室効果ガスの削減にもつながります。宇宙農業を目指しながら、地球上の食料問題、環境問題の解決につなげようとしています。

宙炭は、多孔質の炭に土壌微生物を付加・定着させたもので、原料はもみ殻や畜糞、茶殻やコーヒーかす、バーク(木の皮)や竹といった未利用のバイオマスです。炭の無数の小さな穴に、最適な微生物を培養します。
アマゾン川流域の「テラプレタ」と呼ばれる黒い土は、地球上で最も豊かな土壌の一つで、古代先住民が数千年にわたって土に木炭や有機物を混ぜ込んで作り上げました。微生物の働きが活発で、有機物が分解されやすく連作障害も起こりにくいとされています。宙炭では、土壌の有用微生物、約1000種類ほどをスクリーニングし、かつ特殊な技法でバイオ炭に複合培養。数億通りにのぼる微生物の組み合わせの中から最適な微生物を解析し、特殊な技術でバイオ炭に培養しており、1カ月でテラプレタと同様のような豊かな土壌を作ることができます。

農業残渣(ざんさ)や食品残渣(ざんさ)などのバイオマスは、燃やせばCO2(二酸化炭素)が発生しますが、宙炭に加工し、農地に施用すれば炭素として貯留されます。しかも、宙炭は植物を育てる土壌となり、植物は光合成の働きで大気中のCO2を吸収します。削減・吸収したCO2はカーボンクレジットとして認証され、取引も可能です。
当社では宙炭の製造・販売とともにカーボンクレジットの代理申請・売却、さらに両者を組み合わせた事業を主力としています。カーボンクレジットの発行実績は149トン。来期(26年9月期)はさらに150~200トンの上乗せが見込まれます。
環境に優しいイメージの農業ですが、実は現代の農業は環境への負荷が大きく、温室効果ガスの排出源として大きな問題となっています。さらに化学肥料の原料が枯渇すると言われる一方で、人口は増えていくので、環境負荷が少なく生産性の高い持続可能な農業技術の開発が急務です。農薬の過剰散布などで土がやせ、日本では100年から200年後、世界規模では500年から1000年後には農地で作物が取れなくなると言われています。
宙炭を活用することは、それらの課題を解決し、環境負荷の少ない持続可能な農業を実現することにつながります。繊維・ファッション産業とも、環境負荷の低減、持続可能な農法など、原料栽培の視点から協業できると考えています。
(繊研新聞本紙25年9月29日付)