【ファッションとサステイナビリティー】帽子デザイナーの清原世太氏 琉球パナマ帽で地場産業の復活を目指す

2023/02/22 05:30 更新


 100年以上前に沖縄の地場産業の一つだった〝琉球パナマ帽〟の復活に地道に取り組んでいる帽子デザイナー、ピリオド(東京)代表の清原世太氏。「歴史に埋もれていた地場産業を復活させることで、雇用創出・拡大にもつながる。さらに、防風樹としての役割も果たすアダンを植樹し、栽培を続ければ、自然豊かで災害にも強くなり、観光産業にも相乗効果をもたらす」と考える。今後の持続可能な成長に向け、課題である現地の作り手の育成にも力を注ぐ。

ボーシクマーを探す

 琉球パナマ帽は、沖縄沿岸部に自生する植物、アダンを材料にした帽子。100年以上前に高級帽子として海外に輸出され、1911年には砂糖(サトウキビ)、泡盛に次ぐ生産高で3大地場産業の一つだった。一時期には帽子製造業に3万人近くが従事。ほとんどが女性の仕事だったという。その後、戦争などで衰退してしまい、現在は沖縄でもほとんど知られることなく、〝幻の産業〟となってしまった。今ではアダンを使った帽子を作る個人の作家がいるくらい。

 清原氏が琉球パナマ帽に関心を持ったのは、10年以上前に古い文献で見かけた「アダン葉帽」という文字だった。ネットで検索しても詳細が分からなかったため、沖縄まで足を運び、琉球大学の図書館で資料収集に明け暮れた。そこから1~2年は、現地で今でも編んでいる人を探し続けた。沖縄では帽子を編む人を「ボーシクマー」と呼んでいる。その後、やっと2人と出会え、そのうちの1人、木村麗子さんに賛同してもらった。清原氏が8年間、1人で沖縄に粘り強く通い続けた結果、今回の取り組みが始動することになった。

沖縄のボーシクマー

 100年以上前の帽子作りを復活するのは手仕事によるアナログな作業が中心なので、手間と時間を要する。資料に残っていた素材作り・編み方を手掛かりに、今の手法も織り交ぜながら調べては作るという作業を繰り返した。生産工程は①アダン葉の収穫②ゆでるなど加工前の処理③脱色④乾燥⑤編み⑥帽体まで県内で仕上げる。ここまでで3~5カ月かかる。その後、県外の帽子工場で製品化する。

アダン葉を手作業で編み上げる

 そうして出来上がった琉球パナマ帽は、21年6月から米ニューヨークのセレクトショップで販売(1年間限定)した。その夏には地元・那覇市のセレクトショップ「プラント&ソイル」で初の受注会を開いた。パターンオーダーで形やサイズ、リボンの色や刺繍を選べるようにした。価格(本体)は10万~15万円。「琉球パナマ帽は修理しながら長く使える。本当のサステイナブル商品。使い捨てではなく3世代に愛されるようなベーシックの完成形を突き詰めたい」(清原代表)と強調した。昨年春には有力百貨店にも期間限定ショップを開設するなど着実に歩みを進めている。昨年秋には「全国伝統的工芸品公募展」にも入選した。

百貨店やセレクトショップでも好評な琉球パナマ帽

 ただし、始まったばかりのプロジェクトには課題も多い。一番は帽子の編み手であるボーシクマーの人数が圧倒的に少ないこと。そのため、現地、沖縄で作り手の育成を含めた生産の仕組み作りが急務だ。清原代表は東京で自身の帽子ブランド「メゾンバース」の運営があるため、沖縄に常駐することは難しい。コロナ禍で沖縄と東京を行き来する頻度も減らさざるをえなかった。新たな取り組みでは、持続可能な循環型の仕組みを目指す。これまでは清原代表の会社、ピリオドが琉球パナマ帽の完成品を販売してきたが、今後は、沖縄から半製品(帽体)を東京など全国の帽子メーカーや工場、問屋、作家らに提供する計画だ。仕入れ先が増えることで安定した数量の生産が必要となるからだ。そのためには編み手の技術向上が欠かせなくなる。

課題は人材育成

 それらを踏まえた清原代表の計画では、まず、沖縄でアダン葉栽培の畑を所有する事業者を管理する会社と人材育成のスクールを兼ねた工場を開設する必要がある。現状、ボーシクマーは各島などに点在しており、帽体を編むのは手仕事のため品質がばらついてしまう。そのため、正しい技術の継承する場として、スクール兼工場に集まり、改善を繰り返すことで全体の技術向上を目指す。こうして編み手を増やすことが、新たな産業の創出、雇用拡大にもつながっていく。このような仕組みを実現するには、「1人では限界があるため、現地のパートナーはもちろん、行政からの支援や出資してくれる賛同者などに協力してもらえるのが理想形」としている。

 地域資源を活用した持続可能な素材をはじめ、全て日本で作られる帽子は希少な存在であり、海外販路開拓の大きな武器にもなり得るだろう。それだけでなく、伝統工芸を次代に継承し、新たな地場産業を生み出すことができれば、地域の未来を切り開くことにもつながるはずだ。

「幻の産業を復活させ、世界と勝負したい」と清原代表

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(繊研新聞本紙23年2月22日付)

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