使用済みペットボトルを原料にしたリサイクルポリエステル繊維が広がっている。海洋プラスチックごみ問題などへの関心が高まり、課題解決につながる手段として改めて注目されているのだ。85年からリサイクル事業を行う協栄産業(栃木県小山市、古澤栄一社長)は、長年磨き上げた高度なリサイクル技術で、アパレルに求められる高機能・高感性な繊維に対応したリサイクル原料を製造している。
近年、注目されるリサイクルポリエステルだが、それ自体は目新しいものではない。日本では容器包装リサイクル法施行によって、ペットボトルの分別回収が始まった97年前後に合繊各社が事業化し、エコマーク認定なども追い風に広がった。
ユニフォーム、スポーツなどでベーシックなアイテムを中心に採用されてきたが、ここにきて、高付加価値素材を含めた幅広い用途で、リサイクルポリエステルを採用する動きが強まっている。
きっかけは海洋ごみ
きっかけの一つは17年ごろから浮上した海洋プラスチックごみの問題だ。陸上から河川を通じて海に流れ出たプラスチックごみが、海洋生物や人体に影響を及ぼしているとして問題になり、ごみ削減につながる取り組みとしてグローバルアパレルなどがリサイクルポリエステル強化に大きくかじを切った。
そこで求められているのがより高付加価値なリサイクル繊維だ。従来はポリエステルの短繊維やレギュラー長繊維が主だったが、リサイクル技術の進歩もあって、ハイマルチ細デニール、フルダル、異形断面といった機能や風合いに優れたリサイクルポリエステルの開発が進んでいる。
協栄産業は国内屈指の高付加価値なリサイクルポリエステル原料を製造するメーカーの一つ。東レが今年から販売を始めたリサイクルポリエステルの事業ブランド「&+」(アンドプラス)でも協業し、高機能・高感性な繊維への展開でペットボトルの高度利用を進めている。
通常、ペットボトルリサイクルは、回収資源の品質にばらつきがあり、均質なリサイクル原料を安定的に供給するのは難しい。特にポイントとなるのがポリマーの粘度だ。回収されたペットボトルは、破砕、洗浄などの工程を経て、熱で溶かしてリサイクルペレットになるが、熱が加わるたびに劣化(加水分解)が進み、粘度が低下して熔融した際によりしゃばしゃばになる。用途によって適切な粘度は異なり、繊維だと汎用的な短繊維よりも高付加価値な長繊維には高い粘度が求められる。
ボトルからボトルに
協栄産業の最大の強みはこの粘度をコントロールする技術で、中でも回収ボトルを新たなボトルに再生させる〝ボトルtoボトル〟が象徴的。あらゆる用途の中でも最も高い粘度が求められるボトル用途をリサイクル原料で出来るようにし、12年からサントリー向けに100%リサイクルのボトル原料を供給している。
同社は再縮合重合というケミカルプロセスを取り入れることによって粘度を回復させる技術を確立し、何度でもボトルにリサイクル出来る循環モデルを完成させた。従来だと、化学的な処理で原料段階に戻すケミカルリサイクルでなければできないと思われていた、バージン(新品)に近い品質をマテリアルリサイクルで実現させたのだ。第三者機関の調べで、マテリアルリサイクルはバージンと比べて二酸化炭素の排出量を63%削減できるメリットがあり、有限な化石資源の使用も抑えられる。
一方で衣料用途は、ボトルとは異なる品質も求められる。白度の高さなど色味は特に重要だ。繊維にした時の劣化、強度低下などにつながる異物の除去も重要。溶融したリサイクルポリマーをフィルターにかけ、細かな異物を除去するフィルタリング技術で、最適な原料を作り出す。
今後、「繊維向けでもさらにリサイクル技術をレベルアップさせていきたい」という。
(繊研新聞本紙20年4月28日付)