【ファッションとサステイナビリティー】環境配慮型スニーカーに力を入れるアシックス 温室効果ガス実質排出ゼロへ加速

2024/12/26 05:30 更新


11月末にはネットゼロに向けた進捗を報告するメディア向けラウンドテーブルを開催。井上サステナ部長、村岡秀俊サーキュラーエコノミー推進部長らが参加した

 アシックスが、サーキュラーエコノミーの実現や温室効果ガス排出削減に向けた取り組みを強めている。23年9月、市販スニーカーの中で温室効果ガス排出量を最も低く抑えたスニーカー「ゲルライト3CM1.95」を発売。24年4月に使用材料を容易に分別・リサイクルできる「ニンバスミライ」、同11月にはデットストックなどを原料に用いた「ネオカーブ」を販売した。同社の基本方針と、3モデルを手掛けた成果と課題は何か。

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再生ポリエステル使用率4割超

 アシックスは、50年までに事業における温室効果ガス排出量を実質ゼロとすることを目標に据え、①サプライヤーとの協働②製品イノベーション③消費者との協働――を柱に、様々な取り組みを進めている。

 サプライヤーとの協働では、生産段階での二酸化炭素(CO2)の排出削減に挑んでいる。一次取引工場に対しては、そこで使われるエネルギーの85%を、30年までに再生可能エネルギーへ切り替えを進めており、特にアシックス事業の8割を占めるシューズの戦略工場では、既に全工場で合意した。また、「グリーン調達方針」を掲げた22年は2社しか再エネを導入できていなかったが、今では90%以上の工場で採用。サプライチェーンでのCO2排出量削減率は、23年実績で21.6%(15年比)。

 製品イノベーションでは、「品質・機能性と環境負荷低減の両立」をテーマとする。30年までにシューズ・ウェアで使用するポリエステルを、すべてリサイクル材に切り替えることを目標としており、23年度は再生ポリエステルの使用比率は40%以上となった。

 消費者との協働では、製品循環の環を共に築くことを目指す。現在、日本、米国、欧州、オーストラリアで製品の回収・リサイクルプログラムを進める。

CFPなど広め行動変容促せるか

 23年以降に販売した〝サステナシューズ〟は、サーキュラーエコノミーの実現に前向きな効果を生んでいる。ゲルライト3CM1.95は、その開発に取り組むことで、取引工場とCO2排出削減に向けた検討が本格化。「課題の重要性が深まり、このモデルを契機に再エネ調達が進んだ」(井上聖子サステナビリティ部長)。また、カーボンフットプリント(CFP)の計測・可視化と開示が実現したことで、社内の関心も向上。サステナビリティ統括部と研究・開発部などの間で、「どうやったらCFPの数値を下げることができるか」といったやり取りが格段に増えたという。

 一方ニンバスミライでは、独自開発した接着剤が家具など他業界に転用できる可能性があることも分かった。マテリアルリサイクルによって現在販売されている様々なシューズを材料化できるネオカーブについては、「EPR(拡大生産者責任)の考え方を踏まえた先進的な動き」と社外からは評価されている。

 課題もある。一つは、3モデルの開発で得られた知見を既存モデルに採用するには時間を要すること。例えば「リサイクル可能な設計」については、「各製品で実現している機能性が異なり、一つひとつ確認しながら広げていく必要がある」(井上部長)という。

 もう一つは、リサイクルの環を完成させるには、当然ながら、一般消費者の参加が求められること。アシックスでは「製品の製造過程でエネルギーや材料がどう使われているのか、CFPとは何かなどを知らせ、行動変容につなげたい」(井上部長)とする。

CO2削減、循環型ものづくりに挑んだ製品

●ゲルライト3CM1.95

 温室効果ガス排出量を市販シューズで一番少ないものとなるようパーツ数をできる限り少なくし、その形状も工夫するなど構造を見直した。また材料ではリサイクル材やサトウキビ由来のものを使い、再生エネルギーへの転換も進めた。

ゲルライト3CM1.95

●ニンバスミライ

 アッパーとソールを接合する接着材を独自開発、熱を加えることで簡単にはがすことでき、リサイクル時の分別をしやすくした。補強材含めアッパーをすべてポリエステルで作り、使用後の靴を回収・再利用できる仕組みも構築した。

ニンバスミライ

●ネオカーブ

 デッドストックやサンプル品などを集め再材料化し、バージン原料などと掛け合わせてアップサイクルした。再生材料は靴の15%を構成。靴の分解・粉砕・分類の工程ではオランダのベンチャー企業と組む。26年から新規制で靴の廃棄ができなくなるEU(欧州連合)内で回収・生産・販売を開始。

ネオカーブ

ファッションとサステイナビリティートップへ

(繊研新聞本紙24年12月26日付)

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