《ちょうどいいといいな ファッションビジネスの新たな芽》丹後の「たてつなぎ」 ポップな表現で伝統を身近に

2024/07/31 10:59 更新


 京都府丹後地方が拠点の「たてつなぎ」は、丹後ちりめんを、もっと多くの人に知ってもらいたい、使ってもらいたい思いで20年4月から活動しています。オリジナル商品を企画・製造・販売し、今年5月にはおにぎり型の巾着を作るキット「カップチリメン」を発売。認知や販路の拡大に取り組んでいます。

気軽に楽しめる

 メンバーは、生地製造の臼井織物の臼井勇人さん、染色加工の大善の田中栄輝さん、デザイン担当の森山怜子さん。丹後に生まれ育ち、それぞれ別の企業で織物に携わっています。既存の商品の多くは、きものや和装小物の高級品に使われ、一定の知識や購買経験のある常連客や富裕層に依存する産地全体の体質が長年の課題となっているそう。気軽に触れるきっかけを作りたいと考えた3人は、地元でなじみのある企業と協業商品を作りました。京丹後市の平林乳業の「ヒラヤミルク」のポーチは、同窓会で配られるなど好評です。

丹後の人は誰もが知っているという「ヒラヤミルク」との協業商品。トートバッグやポーチなど日常使いのアイテムを作った

 たてつなぎの丹後ちりめんは、販売価格を抑えることができて、取り扱いしやすいポリエステル糸を使っています。小ロット生産も強みの一つで、ECでは絵や写真をプリントしたポーチやテキスタイルボードを受注販売しています。

小ロット生産ができる強みを生かしたオーダーメイドのポーチ。子供の絵をプリントした一点物

 新作のカップチリメン は、デザイナーの武田美貴さんが加わった新ブランド「cijimu」(ちぢむ)で商品化しました。カップ麺を模した容器に巾着を入れ、熱湯を注いで3分待つと、生地が縮んで米粒状のシボが現れ、巾着のひもを絞るとおにぎりのようになります。乾かした後、アイロンで「海苔(のり)」か「梅」のフェルトを付けて完成。カップラーメンやおにぎりは、日本の食文化として広く認知されているので、インバウンド需要を意識して、説明書には英語表記もつけました。

「ちぢむ」の初商品として発売した「カップチリメン」
丹後ちりめんにお湯をかけて3分で縮ませることに成功し商品化につながった

事業に相乗効果

 臼井さんは「臼井織物はBtoB(企業間取引)で和装向けに卸売りしてきました。製品事業は、取引先の業界が異なり、商習慣もだいぶ違います。たてつなぎを始めたことで、市場が2倍になったのは大きな変化」と言います。田中さんの大善は、05年から新規事業でオリーブオイルを製造販売しており、たてつなぎの活動を通じて認知が広がり、オリーブオイルの取り扱いにつながったケースもあるそうです。

 3人は「声をかけてもらえたら、できるものは何でも作る」スタンスです。事業者向けののれんや幕などの製作実績もあります。フットワーク軽く、柔軟に動きながら、遊び心あるポップな商品で人々を引きつけ、地元の産業を盛り上げています。

「たてつなぎ」のメンバー。左から森山さん、田中さん、臼井さん

■ベイビーアイラブユー代表取締役・小澤恵(おざわ・めぐみ)

 デザイナーブランドを国内外で展開するアパレル企業に入社、主に新規事業開発の現場と経営で経験を積み、14年に独立、ベイビーアイラブユーを設立。アパレルブランドのウェブサイトやEC、SNSのコンサルティング、新規事業やイベントの企画立案を行っている。



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