水戸部七絵さんは、迫力のある厚塗りの油絵を手で描く現代アーティスト。過去に「グッチ」「アニエスベー」など多数のファッションブランド店での展示経験があり、業界からのラブコールが絶えない。国内アート市場全体はじわじわ成長しているものの、若手作家はギャラリーの閉廊もあり、作品発表の場が限られる実情がある。そこで自ら推しの作家を集めて実験的なグループショーを都内で開いた(2月15日まで)。「大変な時こそ面白い作品が生まれる。実験的な空間で紹介したい」と水戸部さんは言う。
(永松浩介)
理想の展示
名古屋の美術大学を卒業後、制作や海外留学を経て、24年に東京芸術大学大学院美術研究科を卒業。作品は、愛知県美術館のほか、韓国、オーストリアの美術館にも所蔵されている。3月からは文化庁新進芸術家海外研修員として1年間、アメリカに滞在する。
渡米前に企画したのは「コラボレーションズ」というグループ展。水戸部さんが推しの作家18人に参加してもらった。イメージは、20年前に留学先のオーストリア・ウィーンで知った実験的なギャラリーだ。
そこでは見たこともない作品が心地良い間合いで展示されており、「理想の展示」として頭に残っていたという。だから今回は、「世代もジャンルも超えたごちゃっとした展示にしたかった」。初めて作品を発表する作家がいたり、彫刻作品が多かったりと実験要素が強い。彫刻作品がギャラリーで展示出来るのは貴重な機会という。


自らが世話になったギャラリーを含め閉廊が続き、若手の発表や販売の場は少なくなっている。「展示してみたい」という相談も増えており、その危機感が開催の背景にあった。実験的な展示はギャラリーにとっては商業的に難しい面もあるが、今回は東京・渋谷の「ノマディックギャラリー」が協力した。「美術館とギャラリーの中間」のような場にしたという。

AI時代のアート
次代の作家にスポットを当てる意欲的な展示空間。かつてカメラの登場で絵を描く意味を問われたように、AI(人工知能)隆盛の時代には、改めて作家が物を生み出す意味を問い正される。そういう点では、過去のデータの蓄積から回答を生み出すAIとは異なる、人の手を介した、〝ゼロイチ〟作品が多い印象だ。
音楽でもアートでも不況や先の見通せない時ほど、新しい物が生まれてくるのが世の常。現代アートは特に、困難な時にこそ新しい物が出てくるという。そんな新しい作品を生み出す若手を、過去に水戸部さんが体感した実験的な展示空間につなげたいという思いから生まれた。
参加したある若い作家は、「尊敬する先輩や恩師と一緒に展示することができて、とても勉強になった」と話した。水戸部さんは2月6日から東京・青山の「エイチ・ビューティー&ユース」でも個展を開いている。
