【センケンコミュニティー】業界のユニーク研究所紹介します 独自の調査・研究で成果
新製品の開発、接客やサービスの改善、ファンの獲得に向けて調査、研究活動は欠かせませんね。調べてみると、ファションビジネス業界にも様々な研究施設があります。本格的な設備を持つ世界的研究所がある一方、中堅企業でも個性的な活動をする研究所を設ける例が増えています。
◆チヨダ はきごこち研究所
商品、接客、空間の質上げる 店舗から本社まで新たなことに挑戦
靴専門店チヨダの「はきごこち研究所」は、店舗から本社まで全従業員が研究所員として参加する社内プロジェクトだ。商品や接客、売り場空間をより良くするため、店舗スタッフや消費者の声を積極的に取り入れて議論を重ねている。同研究所が先導し、消費者の声を元に開発した、働く女性のための新PB「フワラク」は、17年2月の発売開始から売れ行きが良く、年間販売計画に対して順調に推移している。
設立は15年夏。「靴専門店としてお客様にどんな価値が提供できるのか。良い店、良い会社にするため、色々なことに挑戦してみようというのが始まりだった」と振り返るのは、同研究所所長の永田誠二商品統括部課長だ。
研究所の活動が最初に形になったのは、販売スタッフが身に着ける「はきごこちセット」。靴べらやメジャー、はさみなど、接客時に携帯しておくべき物を身に着けやすくするためのもので、「販売員の働きやすさの向上が消費者の快適な買い物につながる」と考えて開発した。
節目を迎えたのは16年春。20~40代女性約500人に対して、仕事靴に関する意識調査を実施した。これがフワラク誕生のきっかけとなった。その後も仕事でパンプスを履く機会の多い20~40代女性を集め、試作品に対する意見を聞き取る座談会を複数回開いた。商品開発時に消費者からどんな靴が求められているか、生の声を聞くのは同社としても初の試みだった。
商品開発だけでなく、客が気持ち良く買い物できるような空間作りや接客販売などを重視した新業態「チヨダはきごこち」も生まれた。16年春、東京駅八重洲地下街に1号店を開き、3店まで広がっている。
研究所の設立で、新たな商品・業態が生まれただけでなく、「店舗から本社までの『靴専門店として新しいことに挑戦してみよう』という雰囲気が高まっている」という。今後研究所では、フワラクをPB商品の新たな柱へ成長させることに注力するとともにに、第2、第3の柱作りにも挑んでいく。
《メモ》設立=15年夏▽所在地=東京都杉並区荻窪4の30の16藤澤ビルディング5階(本社)
◆アシックス スポーツ工学研究所
体の動きや材料など研究 世界の直営店からデータ収集
アシックスのスポーツ工学研究所は、「スポーツで培った知的技術により、質の高いライフスタイルを創造する」というビジョンを具現化する部門だ。人間の運動動作に着目し、独自に開発した素材や構造設計を用いることで、アスリートだけでなく世界の人々の可能性を最大限に引き出すイノベーティブな技術、製品、サービスを継続的に生み出すことを使命としている。
同研究所は1977年に大阪に設けられたアパレル製品の技術研究室が前身。85年の本社移転に伴い、現在の研究所が設立された。研究の割合としてはシューズ関連が50%、アパレル25%、用具20%、サービスその他5%ほど。研究対象では「人間特性」「構造」「材料」「分析評価試験」「生産技術」などがあり、体の動きや体形、競技特性に合わせた商品開発や、その材料選定、生産方法と化学から工学まで多岐に渡る。オーストラリアやドイツの大学と協力したデータも集めており、世界の直営店からは足型データも収集している。
15年には1250平方メートルの新館を増設し、総建物面積5000平方メートル規模に拡大した。ウェア開発の強化のためアパレル研究室を設け、3Dプリンターなども導入した。屋外にはラグビーなどの実験を行う人工芝広場、屋上の傾斜走路も新設した。今後も社外との協業を進めながら自社独自の研究を追求していく考え。ウェアラブルやヘルスケアなど異業種との取り組みも重要になっており、基礎研究から店頭情報まで全ての関与を深める。
ウェアでは、同研究所と東レで共同開発した高機能素材を使用した陸上短距離用スーツ「HLOスプリントスーツ」は昨年のリオ五輪、先日のロンドン世界陸上で提供され、フランス選手がメダルを獲得するなど成果を出した。
《メモ》設立=1985年▽所在地=神戸市西区高塚台6の2の1▽スタッフ数=96人
◆バリュープランニング おもてなし研究所
販売スキル向上目的に 優れた接客体験を共有
ストレッチパンツ「ビースリー」を中心とするバリュープランニングは15年2月、二つ目の研究所として「おもてなし研究所」を開設した。もともと接客を必要とするブランドのため、販売スキルの向上を目的にスタートした。特に各店にある優れた接客やクレーム対応などをすくい上げ、共有することに力点を置いている。
研究所は本社近くにあり、3階建て。半地下にあるのが「スタジオビースリー」。完全防音の部屋で照明、撮影などの設備が整っている。ここで2種類の動画を撮る。一つは井元憲生社長自ら出演する「社長マンデー」。店舗スタッフに伝えるべき会社の考え方、方向性、当面の取り組みなどをユーモアたっぷり、身ぶり手ぶりを交えた動画にする。これを毎週、全店舗に配信する。2カ月に1回は店舗スタッフが社長に質問するコーナーも設けている。
もう一つが「ウイークリービースリー」。実際の接客・サービスでの成功例などを共有するもの。本部スタッフが店舗まで行き、ロールプレイング式で撮影する。「トップダウンだと何段階か経るうちに正しく伝わらないこともある」(井元社長)として、会社と店舗が直接つながることが重要と考えている。
2階には模擬店舗があり、ディスプレー、接客を修練する場となっている。3階には映像編集室があり、専門スタッフが働く。
研究所の成果については、店頭業務の効率化があるという。店舗に伝えるべき情報が入り乱れず整理されて発信されるため、店舗の事務作業が減り、接客できる時間が増える。
同社にはパンツ作りをあらゆる角度から検証、研究する「美脚研究所」があり、顧客満足度を高めるための三つ目の研究所「CS研究所」開設の準備も進めている。
《メモ》設立=15年2月▽所在地=神戸市中央区上筒井通7の1の1▽スタッフ数=4人(ひとり産休中)
◆フェリシモ オシゴト女子研究所
働く女性の悩みに対応 購入機会つくる効果
フェリシモは今年1月、オシゴト女子研究所を立ち上げた。全国にいる「オシゴト女子会員」(アンケートに参加したり、フェリシモの会員で働く女性)の悩みに対応するために開設した。特に「自分のファッションセンスに自信がない」「オフィスでのファッションに悩んでいる」といった声にこたえる必要があると考えた。
スタッフは女性4人、男性3人の計7人。これまでの活動は調査、分析が中心。たとえば、「オシゴト女子の服装の悩み」「いいご縁と社内恋愛」「夏の悩み」について調査した。服装調査では、「似合う服が何か理解していますか」の質問に対しては、「思う」が62%、「思わない」が38%だったが、「ファッションセンスに自信はありますか」の質問には、「ある」が29%、「ない」が71%という結果だった。似合うものは知っているのに、オフィスファッションはとたんに自信がなくなるということがわかった。
これらの情報は、同社のファッションオウンドメディア(自社の基幹メディア)『Niau』で届けている。これまでのところ、公開情報では商品開発につながった例はないが、今後は調査、消費者とのコミュニケーションから新製品を生み出したいとしている。
調査をきっかけにホームページをチェックしたり、カタログを手にするなど、購入してもらう機会を増やす効果があるという。
今後も、仕事もおしゃれもがんばるオシゴト女子の本音に迫る意識調査、ファッションから恋愛、体の悩みなどのコラムを届ける考えだ。「ファッションを接点に楽しく美しく充実したオシゴト女子ライフを一緒につくっていきたい」としている。
《メモ》設立=17年1月▽所在地=神戸市中央区浪花町59▽スタッフ数=7人