繊研新聞社による「第6回ファッションECアワード」は、実店舗への客足が戻るなか、OMO(オンラインとオフラインの融合)での先駆的な取り組みを行うサイトが、昨年に続きエクセレント賞に輝いた。フォーカス賞では、コンテンツやSNSでの情報発信にたけ、着実に顧客やコミュニティー作りにつなげているサイトが注目された。デジタルを軸としながらも、実店舗とのつながりや、オンライン接客を通じてぬくもりの感じられるサイトが支持されたと言える。サポート賞では、データ活用によるCX(カスタマーエクスペリエンス)向上のソリューション・サービスが支持を集めた。
エクセレント賞は、昨年に続き「ドットエスティ」と「ユニクロオンラインストア」。フォーカス賞は「コヒナストア」と「パルクローゼット」。サポート賞は「アウーAI」と「ユニサイズ」が受賞した。
これらの賞は、ファッション企業やITベンダー合計約100社からのアンケートをもとに選出。サイトの構築・運用で優秀・注目されるファッション直営ECサイトと、サイトへの集客・売り上げ増・効率運営を支援するITベンダー・サポート企業を表彰するもの。なお、サポート企業で3年連続で受賞した「スタッフスタート」は殿堂入りとなっている。
エクセレント賞
「ユニクロオンラインストア」(ユニクロ) 際立つ総合力の高さ
「ユニクロオンラインストア」(ユニクロ)も、昨年に続く受賞。エクセレント賞は合計3回目の受賞となる。総合力の高さが評価されており、中でも「徹底的な顧客主義」「必要な情報とサービスが揃っている」と、最新技術を導入しながらも、消費者視点での使いやすさを追求しているとのコメントが多かった。アプリでのオーダーから最短1時間で店舗で商品を受け取れるオーダー&ピックの進化をはじめ、店舗活用に組み付けたUI・UX(ユーザーインターフェイス・ユーザーエクスペリエンス)、OMOの実践が優れているとされた。ライブコマースや着用シーンなどの動画による情報発信のきめ細かさも注目された。
「ドットエスティ」(アダストリア) OMO推進に高評価
「ドットエスティ」(アダストリア)は3年連続での受賞となった。豊富なコンテンツ、優れたUIによるユーザビリティーの高さが支持された。また、全国に9店舗(5月19日現在)を出店するOMO店舗「ドットエスティストア」を軸としたOMOの推進と、関連してのオンライン接客の充実ぶりを指摘するコメントが多数集まった。加えて、マルチブランド戦略の発展形として、昨年はサイトのオープン化により他社ブランドの出店も開始。コーディネート投稿で人気の販売スタッフとの協業なども実施しており、「コーディネート資産のマネタイズに注目している」と、新たな取り組みも評価ポイントとなった。
フォーカス賞
パルクローゼット(パル) 人軸のコンテンツ作りに注目
「パルクローゼット」(パル)は初の受賞。直近の23年2月期の業績でもECは全体で28.8%増とコロナ禍後も高い伸びを示し、好調ぶりがうかがえる。アンケートでは、「様々な切り口の特集や動画、スタッフ活用コンテンツなどで、リアルに近い買い物体験を提供している」とのコメントをはじめ、コンテンツの充実や販促施策の巧みさに注目が集まった。特に、スタッフにフォーカスしたコンテンツ作りが評価されており、「インフルエンサー化が成功している」と指摘する企業も。また、自社の幅広い価格、商材を扱うマルチブランドサイトであるため、雑貨を主力とする企業からも、参考サイトして名前が挙がった。
「コヒナストア」(ニューン) 小柄女性の課題に寄り添いファン形成
「コヒナストア」(ニューン)も初の受賞となる。身長155センチ前後の小柄女性向けのEC発レディスブランドとして、18年にデビュー。DtoC(メーカー直販)ブランドの中でも草分け的な存在として市場を開拓してきた。推薦企業からは「低身長にターゲットを絞り込んだコンセプトが良い」との声が多数。その上で、悩みや課題に寄り添った商品企画や、インスタグラムを中心とした情報発信で、しっかりとファンの心をつかみ、コミュニティー形成ができているとして得票した。詳細なサイズ表記で、丈感など着用イメージが想定しやすい商品ページなど、消費者目線でのUIも評価ポイントとなった。
サポート賞
「アウーAI」「ユニサイズ」 自社データ生かしCX向上
サポート賞は、AIサジェストプラットフォーム「アウーAI」(アウー)、サイズレコメンドエンジン「ユニサイズ」(メイキップ)が受賞した。アウーAIは前回に続く2度目の受賞。
アウーAIは、ECサイトの商品情報をもとにハッシュタグを自動生成し、商品画像だけでは伝わりにくい商品特徴を訴求する。利用者がハッシュタグをクリックすると、そのキーワードごとに関連商品を集めたランディングページを自動生成、利用者はスムーズな商品検索が可能になる。サイト内の回遊性を大きく高め、CVR(購入率)を押し上げる。売り上げに貢献している支援サービスに挙げた企業にはCVR15%増、30%増というところもあった。今後、導入したいサービスに挙げた企業でも回遊率・CVR向上に期待がかかる。
従来型のレコメンドエンジンとは異なりトラッキング技術を使わず、クッキーレス時代にマッチしたツールでもある。
20年秋に日本での提供を始め、23年4月に導入企業が100社を超えた。アパレルをはじめ品目数が多いECサイトが中心だ。
ユニサイズは、保有する国内外のブランドのサイズデータと、利用者が入力した身体情報や特徴をもとに、利用者に最適なサイズを推定しレコメンドする。250以上の導入サイト、200万超の月間アクティブユーザーという利用者数、データ蓄積量がレコメンドの精度を高めている。これがまた、導入サイトを増やしている。
売り上げ貢献サービスに挙げた企業の多くが、「サイズ不安を減らし」「CVR向上につながった」としている。今後導入という企業には「管理画面のユーザビリティ―」「課題発見ツール、ユニサイズDXの自社商品戦略への活用」を挙げる企業もあった。
この間、機能拡充や対象カテゴリー拡大などに取り組んでおり、近くアプリのUI(ユーザーインターフェイス)・UX(ユーザーエクスペリエンス)のデザイン変更を実施しECでの試着・購買体験をより安心な信頼性が高いものにする考えだ。利用者のデータが蓄積されるほど、その活用効果は高まる。深い顧客理解に基づくCX(カスタマーエクスペリエンス)向上ツールとして期待が高まる。
前回に続いて、アウーAI、ユニサイズをはじめとするデータ活用によるCX向上のソリューション・サービスが支持を集めた。前回受賞のビジュアルマーケティングプラットフォーム「ビジュモ」(ビジュモ)、前々回受賞のCXプラットフォーム「カルテ」(プレイド)、前回も受賞サービスに次ぐ水準の支持を集めたデータ統合マーケティングソリューション「ビーダッシュ」(データX)などは、今回も売り上げ貢献サービスとして少なくない企業が挙げている。また、前回殿堂入りとなった「スタッフスタート」(バニッシュスタンダード)も、貢献サービスとして多くの企業が挙げた。今後導入したいという企業も多い。
今回は、今話題の対話型AI(人工知能)「チャットGPT」を導入したいサービスに挙げる企業も少なくなかった。既に「使用を開始しコンテンツ制作に有効と実感」という企業もあった。対話型AIを活用したサービスが様々な分野で登場しており、画像生成AIとともに、注目すべき分野だろう。
《アンケート協力企業》
そごう・西武、ミルク、ルックHD、福助、グンゼ、F・O・インターナショナル、オーロラ、オッジ・インターナショナル、キング、コックス、ジュニアー、すててこ、ダイドーフォワード、バロックジャパンリミテッド、ビームス、ファミリア、マルカワ、山喜、青山商事、栗原、東京ソワール、高島屋、チュチュアンナ、ナイガイ、ハニーズHD、三陽商会、川辺、大丸松坂屋百貨店、フランドル、サマンサタバサジャパンリミテッド、シップス、ジャヴァコーポレーション、イトキン、シャルズ、クロスプラス、ファッション須賀、堀田丸正、クロシェ、岡本、JR西日本SC開発、ルミネ、東急百貨店、三越伊勢丹、ジュン、京王百貨店、エフ・ディ・シィ・プロダクツ、マッシュHD、エース、ワールド、パレモ、ジョイックスコーポレーション、スタージュエリー、ブランシェス、土屋鞄製造所、AOKI、ファーストリテイリング、HEAVEN Japan、アダストリア、コンプレックス・ビズ・インターナショナル、スタイル、ナルミヤ・インターナショナル、パルコ、ヒロタ、フェスタリアHD、フランフラン、フリーインターナショナル、プリモ・ジャパン、ベイクルーズ、ムーンバット、ユナイテッドアローズ、キャン、ストライプインターナショナル、藤井大丸、良品計画、レリアン、スタイリングライフ・HDプラザスタイルカンパニー、パル、TSI、レスポートサックジャパン、阪急阪神百貨店、アイジーエー、ワコール、ナラカミーチェジャパン、ミレー・マウンテン・グループ・ジャパン、バーニーズジャパン、アウー、バンブーザージャパン、チャネルコーポレーション、CRI・ミドルウェア、ゼータ、サントリーマーケティング&コマース、ユニバーサルナレッジ、バイセルテクノロジーズ、エルティーブイエックス、スプロケット、ファッション・コ・ラボ、プレイド、メイキップ、ヤプリ、GMT、ワークマン、ANAP、ヤマトインターナショナル(順不同、HDはホールディングス)
ウェビナーを配信予定
6月22日(木)に「ファッションECサミット-第6回ファッションECアワード記念講演-」としてウェビナーを配信予定。詳細はこちらから。