最大の敵は変化への抵抗 工夫しだいで好機
「去年は良いことずくめだったが、良いことは全て忘れる。浮かれていると大変なことになる」(岡藤正広伊藤忠商事社長)。17年4~9月期は上期として過去最高益を更新、ムーディーズの格付けも20年ぶりにA格に上がった伊藤忠商事。それでも岡藤社長は危機感をあらわにする。
巨大化するグーグルやアマゾン、アリババといったIT(情報技術)大手と「接点がない」ためだ。IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)の活用による第4次産業革命が進む今、「過去の延長線上では解答は見つからない。繊維も新しいビジネスに変えなければ」。
最新テクノロジーの導入は大手企業が先行するイメージがあるが、「物を売るという観点で、テクノロジーの進化によって中小企業にとってのハードルが下がった」(経済産業省)。かつては産地企業の海外販売は難しかったが、「今は越境ECも整備され、工夫すればチャンスがある。中小企業に伝えたいのは、ビジネスチャンスを広げる努力を今すればよいのではということ」(同)。
ITベンチャーのエスキュービズムも「取捨選択しないといけない時代だが、安いサービスは無数にある。中小企業もうまく使いこなせばいい」と指摘する。中小企業や個人でも工夫次第で大きな成長につなげることも可能だ。
それでも、「数値化しにくい感性を商品化するため、活用は難しい」「AIは創造性の喪失につながる」など否定的な意見は多い。IoT社会のセキュリティーリスクもある。ただ、ガラケーがスマートフォンに取って代わられたように、技術の進展には抗えない。大事なのは新たな事象を受け入れ、自らの成長のために取り入れると思えるかどうかだ。
軽やかさと柔軟性
「服が売れないとよく言うが、そんなことはない。変化しない企業が駄目になっているだけ。もっと新しいことを考えないといけない」(岡藤伊藤忠社長)。つまり、保守的な姿勢からは何も生まれないということ。「ありがたいことに、新しいことをすることにウェルカムな文化」(パルコ)と言える会社は少数だが、先端を走る企業・個人はIoT関連などの各種イベントに積極的に顔を出す点で共通する。「最先端の人に会っておかないと、考え方の鮮度が落ちてしまう」ためだ。フットワークの軽やかさに加え、技術を導入して間違いだと思ったら素早く取りやめ、次の技術を導入する柔軟性も兼ね備える。
IoT、AIに代表されるテクノロジーの台頭は、保守的になるな、という我々へのメッセージ。革命とは一人ひとりの中にあるもの。現状にとどまって変化をいやがるメンタリティーこそが革命の最大の敵だ。未来を作るためには、自分自身が変わる必要がある。
(おわり)