叫び―国内縫製業の現場から③技能実習生

2016/12/31 06:35 更新


貴重な担い手も課題山積


 国内縫製業で必要なのは後継者と技術者の育成。多くが70代となった現状では、人材育成は待ったなしの課題だ。しかし、縫製工場で働こうという若者は日本には少ない。

 理由は待遇面。ある工場の経営者は「日本人を雇いたいが今の工賃では社会保険やボーナスが整えられない。これでは集まらない」と話す。ほかでも「最低賃金しか払えず、工員は集まらない」「10年以上新卒採用していない」という声が多い。多くの工場が頼るのが技能実習生制度だ。開発途上国の人材を日本で一定期間受け入れ、OJT(現場教育)を通じ技能移転するというものだ。


実態は〝出稼ぎ〟

 かつては中国がほとんどだったが、今はベトナム、フィリピン、カンボジア、ミャンマーなどアジアから多くの技能実習生が日本に来ている。

 実習生はあくまでも学んだ技術を自国の経済発展に生かすのが目的。しかし、実態は「出稼ぎ労働者」として、労働基準法に違反した縫製工場の摘発もあった。技能実習生を支援する愛知県労働組合総連合は、「残業単価が400円、年間休暇が10日程度など奴隷労働に近い」例を挙げる。言葉の壁から実習生は外部に助けを求めにくく、泣き寝入りも多いという。

 一方、縫製工場からも、「実習生が外で犯罪を犯して呼び出されたことは一度や二度ではない」「盗みをする」「トイレにこもって仕事をさぼる」など実習生の態度を嘆く声は絶えない。実習生を受け入れる縫製工場は、送り出した国の機関との窓口になる監理団体(事業協働組合など)に、1人当たり毎月3万円程度の監理費用、その他諸費用を支払う。工場からは「高すぎる。金もうけのための監理団体が多いのではないか」という不信も根深い。「腐敗した業界」のイメージは消えないままだ。

 実習生は、実質的に労働者不足の穴埋めであり、貴重な戦力となっている。この制度を巡る課題や矛盾を感じながら、様々な工夫で乗り越えようとしている経営者もいる。ある工場では実習生を中国人からミャンマー人に変更した。「帰国までの希望貯蓄額がミャンマー人は中国人の半分」のためだ。工賃収入が少なくても、なんとかやっていけるというわけだ。


現状は3年で帰国

 法改正の動きはあるものの、実習生は現状3年で帰国する。人材問題の根本解決が見えないまま、技能実習生から「外国人労働者」に転換を求める声が多い一方、「いっそのこと技能実習制度を廃止して欲しい」との意見もある。さらに、先行して、この制度から「卒業」する工場もある。経営的には厳しくても、この制度に頼らずに生き抜こうという選択だ。

(繊研 2016/11/17 日付 19592 号 1 面)

 生産の海外移転と低工賃、人手不足と後継者難…。国内縫製業は限界に近づいている。その課題と展望について取材した。この連載へのご意見・ご感想を、housei@senken.co.jpまでお寄せください。



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