【連載】中小企業と事業承継① 進まぬ後継者探し

2019/03/02 06:30 更新


【知・トレンド】《入門講座》「中小企業と事業承継」① 進まぬ後継者探し

こうなることは、10年以上前からみえていました。

 経営者の高齢化の話です。当研究所は2007年に、96年と06年の2時点における小企業経営者の年齢分布を調べました。いずれも山型を描きますが、ピークとなる年齢が違います。

 前者は48歳、後者は59歳でした。つまり、10年の間、経営者の多くは交代することなく、年齢を重ねました。結局、その流れは大きく変わることなく、現在に至ります。中小企業庁「中小企業の事業承継に関する集中実施期間について(事業承継5カ年計画)」(17年)が示した経営者の年齢分布によると、15年時点のピークは、66歳でした。06年時点のピーク(59歳)から、7歳ほど進んでいます。

 構図も流れも大きく変わっていません。しかし、10年前と今とで決定的に違う点があります。残された時間です。経営者に定年はありませんが、健康や体力を考えれば、現役を続けるにも限度はあります。

 『2013年版中小企業白書』によると、経営者の引退時の平均年齢は、小規模事業者で約70歳、中規模企業で約67歳となっています。このままだと、経営者の年齢分布のピークが、間もなく引退期に差し掛かります。中小企業庁は先の「事業承継5カ年計画」において、2015~20年に約30.6万人の中小企業経営者が新たに70歳に達すると推計しています。母数の172万社に対し、実に2割弱の経営者が引退の瀬戸際にあるということです。

 にもかかわらず、後継者探しは進んでいません。当研究所が15年に実施した「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」によると、「後継者は決まっている」経営者は12.4%にすぎません。この割合は70歳代でも18.2%にとどまっており、時が来れば解決する問題でもないことがわかります。そして、後継者が決まらない経営者の気持ちは、徐々に廃業へと傾いていきます。「自分の代で事業をやめるつもりである」との回答は、40歳代の36.1%から60歳代の57.2%へと増加しています。


 兆候は既に表れています。リーマン・ショックのあった08年以降、倒産件数は減少傾向にある一方で、休廃業・解散件数は増加しています。東京商工リサーチ「『休廃業・解散企業』動向調査」によると、16年に休廃業・解散した企業は2万9583件と、倒産件数(8446件)の約3.5倍に達しました。廃業したのは、業績不振の企業ばかりではありません。

 『2017年版中小企業白書』によると、2013~15年に休廃業・解散した企業のうち、約半数は黒字でした。今後こうした状況は加速度的に進みます。日本経済は「大廃業時代」の淵に立っています。だから今、事業承継に注目が集まっているのです。本連載では、6回にわたって中小企業と事業承継について考えます。

(藤井辰紀日本政策金融公庫総合研究所グループリーダー)

(繊研新聞本紙2018年11月5日付)



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