猛暑でも建設や機械整備、物流などテレワークができず、過酷な環境で働かなければならないワーカーは少なくない。そんなワーカーたちの間で重宝され始めているのが電動ファン付きウェア。その仕組みは外から取り込んだ空気を衣服内に送り込んで涼しくするというシンプルなものが一般的。その仕組みを工夫し、着用時の安全・快適性とともに見映えまでこだわった商品を作ったのが、電動工具で知られるマキタ(愛知県安城市)、ユニフォーム主力のチクマ(大阪市)、帝人の3社連合だ。
(小堀真嗣)
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一般的なファン付きウェアは表地に取り付けたファンからウェアの内側と体の間の空間に空気を送り込む。裾や袖をリブ仕様にするなどして空気をなるべく外に逃がさないようにしているが、そのため空気でウェアが膨らんでしまう。「空気で膨れたウェアのシルエットが不格好だと気にするユーザーの声がある」(帝人)ほか、「膨れた状態だと作業がしにくかったり、作業現場で機械などに引っかかりやすかったりして、ケガや事故のリスクも考えられる」と指摘する。
こうした課題に対し、帝人は表地と裏地を組み合わせた二層内圧式構造という自社の特許が生かせると考えた。二層内圧式構造は、裏地を使って表地との間に空気の通り道を作り、首元や脇など必要な箇所から空気を流す仕組み。最適な生地を選ぶノウハウも重要で、帝人フロンティアが協力した。
例えば、アウトドアウェア用途のノンコーティング透湿耐水織物「コンデニア」を表地に使い、空気を外に逃がさない一方、裏地からは肌側に「じわっと空気が漏れ出る」生地を選定。これにより、空気の出口だけでなく、衣服内全体にも空気を流すことができる上、空気でウェアが膨らみ過ぎずにスマートなシルエットを保つことができるという。
共同開発のきっかけを作ったのは、帝人の宮坂信義グローバル戦略管掌補佐。主業務ではないが、生地開発に携わって培った「帝人の知財という独自のナレッジを新しいビジネスに生かす」という発想で、ファン付きウェアに着目した。
ファン付きウェアに欠かせないのがファンとバッテリー。約4年前、安全設計の高品質バッテリーとして定評のあるマキタに声をかけた。マキタは元々、自社のファン、バッテリーを使ってファン付きウェアを販売していたが、二層内圧式構造の価値を理解し、マキタブランドのファン付きウェアは全て同構造の採用を決めた。ウェアの設計・縫製については、ユニフォーム製造のプロであるチクマに協力を呼びかけ、着心地と見映えの良さの具現化を追求した。
開発当初、サーマルマネキンを使ってファンの形状や、表地と裏地の最適な組み合わせ、デザインが内部の風力や体感にどのような影響を与えるのか何度も試験した。宮坂氏は「各社のコア技術をオープンイノベーションで融合したため、わずか1年で製品化できた」と強調する。
この間、採用企業が増えており、カー用品のイエローハットや、大阪メトロの大阪市高速電気軌道、商船三井などの作業員が着用している。このほか、宅配業者も関心を示しているという。さらに、チクマを通じたOEM(相手先ブランドによる生産)も広がっている。