ファッションで人を輝かせるアパレル業界。服や雑貨が客に届くまでには、商品を企画・デザインして形にし、それらを売るための販売計画を綿密に立てて指揮する社員たちの活躍がある。物作りに携わる社員に話を聞いた。
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一気通貫で関わる楽しさ トライ・アンド・エラーで粘り強く
物を作るには多岐にわたる知識が必要――新卒で入社し、5年目ながら「ル・フィル」のMDを一人で担う奥島千香子さんは、MDの業務に加えて、期間限定店の設営から接客、週に1度のインスタライブへの出演など多方面に携わる。「商品を企画から販売まで一貫して見られるのが、この仕事の一番の魅力」と話す。
ブランドの調整役に
奥島さんは19年、総合職で入社。大学でパターンの勉強をしていたため、物作りの仕事を志望した。しかし、当初言い渡されたのは営業職。踏みとどまれたのは、「商品の特性やデザインだけでなく、人や館の特性も知っておかないと。それを含めての物作り」と考えたからだ。
半年間の店舗での研修を終え、いざ配属されたのはMDだった。「ジルスチュアート」に始まり、ル・フィルの姉妹ブランド「アドーア」とル・フィルでアシスタントとして経験を積んだ。アシスタントの肩書が外れ、独り立ちしてからは1年が経つ。
軸となる業務は、ディレクターがシーズンに対して作りたい方向性を決め、素材とデザインの選定、全体の型数の調整を行うこと。コストと導入数の調整が肝となる。サンプル検討し、決まったものに対して仕入れ数量の調整などを進めていく。SNSや雑誌媒体、期間限定店について話し合う販促ミーティングにも出席する。夜には、毎週配信しているインスタライブに出演する。インスタライブで発信する内容の調整、商品の手配も奥島さんが行う。
反応が良かったものはリピートするケースが多いため、それらの仕入れや納期の管理も重要な仕事。「現在は1カ月の売り上げの約3割が定番商品」で、リピーターだけでなく、新規客の入り口にもなっている。最終的に廃盤にする商品はディレクターが決めるが、追加はしても数量を段々絞って準定番にしたり、バリエーションとして残したりの判断はMDがする。この読み込みがMDの難しさであり、腕の見せどころでもある。
MDとしての手腕が問われた象徴的な商品がある。名品と名高い「ツーウェーツイルフロントスリットパンツ」だ。発売して約3年経つが、現在でも最も人気が高い定番商品。膝の下まで深くスリットが入ったデザインで、「企画段階では難しいのではないかといわれていた」。しかし、チームで「売ろう!」と意思統一。数量を張って露出を増やしたところ、コンサバティブになり過ぎないデザインと機能性を兼ね備えた点が受けた。
昨年の秋冬は売れ行きが鈍化したが、今年2月に雑誌やインフルエンサーとの取り組みに力を入れたことで再ブレイク。「ル・フィルといえば」と、息を吹き返している。「一度落ちてしまったからといって、それがこの先売れないわけではない。シーズンや露出の方法によって変わる。トライ・アンド・エラーでやっていくのが面白い」という。
当然だが、仕事を共にする仲間は奥島さんよりも年上で、経験豊富なメンバーがほとんど。そのような状況下で、利益を追求していくのは容易ではないが、「ある程度闘うのがMDの仕事」。例えば「もう少し安いものはない?」「これならばもう一段階価格を上げられるよ」など、企画担当と丁寧にすり合わせる。同様に、工場とも交渉する。
期間限定店で接客も
責任ある職種だが、商品を企画から販売まで一貫して見られるのはMDならでは。一つひとつの商品への愛情が深くなり、「いかにしてお客様のもとへ届けようか、商品のことをずっと考えていられる」。期間限定店では、積極的に店頭にも立つ。今年5月にグランフロント大阪で開いた試着会では、全日店頭で接客した。商品化を一から見てきたMDの視点で、どのような意図で作られたかを熱心に伝える。接客で得た店舗の温度感や顧客像は、日々の業務に生かす。
オールマイティーに活躍しているが、「まだまだMDになりたてで、わからないこと、学ぶべきことがたくさんある。特に利益面に関しては今でも苦手」と、成長過程な一面も。パタンナーを目指して入社したが、数量の調整や仕入れにも楽しさを見いだし、「今後もMDを続けていきたい」という。
これからMDを目指す人にも、「自分の好きな服のデザインや素材だけでなく、それを取り巻く環境にも目を向けてみてほしい」と奥島さん。MDの枠にとどまらず、様々な現場で吸収し、MDとしての専門性、正確性を高めていく。
(繊研新聞本紙23年6月14日付)