アパレルEC座談会2016
「ススム!ECのパーソナライズ~人とシステムの良い関係~」
――アパレル・ファッションECの2016年の行方とは?ECサイト運営代行で多数の実績を持つAMSの古田俊雄氏と、昨年辺りから注目され始めた越境EC、個客対応へのソリューション企業とも言えるスタートアップから、バーチャサイズのアンドレアス・オラウソン氏、ミニマルテクノロジーズの上森久之氏を迎えて対談を行った。キーワードに挙がった「接客サービス」「海外販売」「個客対応」について話す中で、パーソナライゼーションが、日本のユーザーはもとより海外ユーザーにも優しいEC環境につながることが見えてきた。(聞き手、書き手=小平麻由)
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《参加者》
古田俊雄氏:AMS取締役事業推進本部長
アンドレアス・オラウソン氏:スウェーデン発ベンチャー、バーチャサイズのアジア地域担当マネジャー
上森久之氏:多言語化管理システムのミニマルテクノロジーズCOO
****(以下、敬称略)
#リアル店と同等の接客求む
司会:早速ですが、古田さんの所では、ECサイト運営代行で累計300ブランドを超す実績があると聞いております。日本のアパレルECの現状を、どう捉えていらっしゃいますか?
古田:実店舗と同等レベルの接客をECサイトでもやっていきたい、ECサイトでももっと接客におけるサービスレベルを強化したいという要望が、去年辺りからどのブランドさんでも高まってきています。
司会:ECの中でも、とりわけ接客サービスへの課題意識が強まっているのですね。
古田:例えばどういうことかというと、大きく分けて二つあります。
一つは“コーディネート提案”です。店員さんの接客で、ファッションの場合はコーディネート提案のウェートが高い。様々なツール開発が進み、EC上でコーディネート提案が楽しめるケースが非常に増えている。実際、アクセス数やお客様の反応から見ても、ECのお客様より、コーディネート見たさでサイトにアクセスするお客様の方が多い。ブランド様によっては、ECをコーディネート提案機能として活用される方も多いです。ECサイトを購入の場というだけでなくて、店舗の接客を支援するツールとして利用される会社さんが徐々に増えています。
司会:購入目的の訪問というよりはコーディネート見たさ、という訪問ですね。
古田:二つ目はサイズです。実店舗だと試着できるけど、ECサイトで買うと、実際手にするまで本当に合っているかわからない。届いて初めて、自分のサイズと違うというのが結構ある。サイズの課題は、去年くらいからお客様の中で重要視されてきていると分野です。
去年辺りから、接客サービスへの課題意識が強まっている。一つがコーディネート提案。もう一つがサイズ。
オラウソン:リアル店舗と同じような接客をしたいというリテーラーからの声は聞いています。ただその前に、インターネットだからこそ出来ることがたくさんあり、例えばパーソナライゼーションがあります。
古田:さきほどのコーディネート提案が、インターネット上で見られて、実際お店に行かなくてもそういった雑誌的な感覚で楽しめる、のは、インターネットでしかできないプラスのサービスですね。
上森:僕自身、消費者の立場になるとわがままになるのはわかります。例えば、実店舗でできることはオンラインでしたい。かつ、オンラインになると、より便利なものを求めたくなる。それがサイズの問題だったり、あるいは他の課題だったり。
パーソナライゼーションにしても、その店に行くと正に自分の好きなものが前に出てきて欲しいとか。それが自分の慣れ親しんだ言葉で、自分にぴったりのサイズで、といった風に。より“わがまま”に対応していかないと、買っていただけないのが現状かと思います。
司会:アパレルECの現状という意味で、その他にございますか?
オラウソン:グローバルな比較では、ヨーロッパと欧米と日本の大きな違いはEC比率と返品率です。欧米の場合、返品率が高いが、その代わり購入率も高い。結構買ってくれるんですけど、返品もそこそこある、というパターン。ただ返品してまた買ってくれる。
よく返品される場合、お客さんの情報が蓄積され、考えていることがよくわかるようになる。そういう意味で、多少のコストはかかっても、リテーラーにとって大した問題ではない。返品はない方がいいが、まず実際に買ってもらうという戦略。ECサイトは特にとにかく買ってもわらないと何にもならない。
欧米の場合、平均的な返品率は3、4割。でも日本は逆ですね、保守的で。
日本のリテーラーは、採寸情報や商品写真など商品にまつわる情報を全部出してくる。その代わりにあまり返品を望ましいとしない。
で、ユーザーさんもショッパーさんも保守的。買ったものは返品しない。EC比率は日本が8パーセント、イギリスが15パーセント以上で、返品率は日本が10%。欧米が30、40%。買い方が全然違う。
司会:3、4倍違うってすごいですね。買い方、情報提供の仕方が全く違うんですね。
オラウソン:欧米はまず買ってもらう戦略をとっている。まず間違えないように、という日本とは違う。
上森:多言語化ツールを提供している立場からいうと、日本と欧米のECを比べた場合、島国と陸続きという違いがあります。
欧米は、国境がありつつ陸続きで言葉や文化が違えど、もともと多言語の文化。国をまたいだ売買が、比較的リアルでもECでも、元々多く成されていた。一方日本は島国で、かつ独自の文化と独自の言葉を使っている。かつ市場規模もかなり大きい。人口1億人を超える国なので、国内完結型のビジネスができていた。
一方、企業は永続的に成長する必要がある中で、日本の1億人だけでなく、海外に60億人もいて、その人たちを潜在顧客にすると、より販売を伸ばしていける可能性が開けている。テクノロジーの進歩によって、こういったことを考えるだけでなくて、実際にできるようになってきたのが、今この時代かと思います。言葉の課題だけでなくて、サイズも物流もCSもそうかもしれない。まさにこれから日本のものが、世界で取引できるようになってくる瞬間。今まさに僕たちはそこにいる、みたいなところだと思います。
一同:(笑)
上森:これまで出来なかった理由は、技術的な問題というよりもコストの話で。何億円何十億円とかけていたら昔でもできていたと思う。
サイズだとすると、わざわざ海外に行ってスウェーデン人の採寸をして日本のスーツを売るとかできましたけど、当然ペイできないので。それがオンラインでフィッティング、サイジング出来ることで日本のものを売れるようになる。言葉もわざわざ人が翻訳しなくてもよくなってきたりとか、そのためのシステムを整えなくてもよくなったりとか、IT技術の進歩によってコストが下がることで実現できるようになっています。
テクノロジーが進歩し、まさにこれから日本のものが、世界で取引できるようになってくる瞬間。今まさに僕たちはそこにいる。
#海外EC元年
古田:そうですね。本当に何年も前までは海外ECはまだコストが高くて、どこの企業も手が出せない時代でしたけど、今はそのハードルが下がり、物流面やシステム面の条件が揃ってきている。色んな会社さんとやらせていただいていますけど、海外からの注文がかなり増えてきている。それも、多言語化ツールを入れていない今の段階でも、ユーザーはどうにか買おうとしている。
司会:日本語表記のままで?ユーザー本人は日本語が使えなくても?
古田:そうですね買おうとする。なので、ニーズとしてはすごく多い。アパレル市場全体がだいだい横ばいくらいなので、企業としてどんどん売り上げを伸ばしていきたいというので考えると、やはり海外市場をどう捉えていくかが非常に重要。そのハードルが下がってきたのが、去年から今年くらいかもしれませんね。それに対してどういう問題解決ができるかというのをいろんなトライアルを各社やっているような段階かなと。
司会:海外のお客さんとは、例えばどこの国とか、どういったブランド・年齢層のものが食いつきが良いとかありますか?
古田:今弊社のお客様の事例で多いのは、若年層向けのブランドで、アジア圏、特に中国のユーザーですね。
今は海外との物流の仲介サービスがあり、それらを利用されてやられてるケースはありますね。ただそれでも、日本語がある程度わからないと購入出来なかったりする。そこに関しては、一般のお客様に簡単に買っていただくには、言語の壁はまだハードルが高い。
多言語対応ツールはこれから重要性が増してくると思いますし、恐らくそういったツールと、手動の翻訳―自動的な翻訳と手動の翻訳をを組み合わせたようなハイブリッドな形が、低コストでできるようになってくる、そういうのを期待したい。
上森:そうですね、はい、がんばります。
一同:(笑)
古田:そういった色んな問題を解決するのに様々なツール・サービスが生まれてきている。弊社が積極的にやっていきたいのが、お客様とサービスとの媒介です。どういったサービスを取り入れてお客様にどういう風に使ったら、それが実際にうまく機能するか、浸透するか、業務フローとして回るか、そういったところのご支援をさせて頂きたいと思っています。そういう意味で、新しいツールを展開する会社様と積極的に取り組んでいきたい。
司会:事業のスタイルを進化させていらっしゃいますね。海外ECは、物流が一歩進んできているが、言語対応はまだこれからという中で、消費者が自助努力によってクリアしつつあるところも部分的にある。
古田:はい、そうですね。
司会:インバウンド需要が去年も引き続き話題でしたが、この影響もあるのでしょうか?
古田:あると思いますね。店舗の売り上げ上位の方は海外の方が多いと聞きますが、なかなかECではその水準に追い付いていない。なので、そこに取り組もうとしているっていうのはある。実際、年間ですごい購入金額買われている方も海外の方とかもいらっしゃるので。
司会:上顧客様だったりするんですね。
古田:やはり日本のブランドが海外で人気というケースが結構あるので、言語の壁などで取りこぼしているところはたくさんあると思います。
上森:海外の消費者でいうと、物凄く欲しいと強く思い、かつ少し英語ができる人しか購入できていない。氷山の一角というか、100人いたら1人の人だけが実際に購買できているような状況かと思うんですよね。それを解決するのに必要なことは大きく2つのフェーズがあると思います。
第一ステップが、そもそも買える環境を整える。その後、実際にどう販売、購買率・コンバージョンを上げるか、という次のステップがあると思う。買える状態を整える、というのが現状かと思います。
オラウソン:現状、中国の方はよく知っているブランドしか買えないだろう。ユニクロなら多少のイメージがあり、過去に買った経験もあるかもしれないから、プレーンな商品なら手に取りやすい。一方、小さなブランドやドメスティックなブランドは買えない。
司会:グローバル展開し、店舗数が多いブランドでしか買えない。
オラウソン:買えないですよね。だから中国人でも、スウェーデン人でも、いつでもどんな小さなブランドでも簡単に安心して購入できる接点と環境を作りたい。
そもそも買える環境を整える。その後、実際にどう販売、購買率・コンバージョンを上げるか、という次のステップがある。
#グローバルで見るサイズ問題
上森:そういった環境の具体例でいうと、サイズの表記は同じでもサイズそのものが国によって全然違うという問題があるんですよね?僕も知らなかったのですが。
オラウソン:サイズは、グローバルで標準化されてないです。近しいサイズでも、リテーラーによって表記が42とかMとか。またデザイナーやシーズンによっても変わる。同じブランドでもシーズンで変わることさえあり、非常に難しいですよね。
上森:普段、日本のSサイズを着ていて、アメリカ製やイギリス製だからXSだろう、と選ぶ。これはサイズ表記の意味をなしてない。日本の皆さんも恐らく一度は経験したことがあるのでは。つまり標準規格ではない。特に、海外ブランドを購入する時に日本人が直面する課題の一つ。
オラウソン:当社のオンライン試着ソリューション「バーチャサイズ」(Virtusize)で見ると、スウェーデンのシャツのMが日本のLに近い。リテーラーはユーザーが安心して購入できるようにサイズ表記をサイトに掲載しているが、実は意味を成していない。だから、実寸表記や物と物同士の比較の方が、意味がある。
司会:日本のアパレルEC事業者はユーザーのために情報提供は充分にしているんだけれど、実はあまり意味を成していないケースがある。
オラウソン:情報は充分に提示していますが、ユーザーにどう受け取ってほしいか、です。ユーザーは、採寸数字が並んだテーブルを見ても、商品のサイズ感を瞬時に想像できない、そうなると自分で計測する必要が生じるので面倒になる。結果、リアル店の方が良い買い物経験になる。020ももちろん大事だが、インターネットだからこそできることをしたい。まずECそのものの進化が必要。今まさに、EC1.0からEC2.0と移り変わる時で、面白いタイミングです。
サイズは世界で標準化されていない。サイズ表記が実は意味を成していない。よって、実寸表記や物と物同士の比較の方が、意味がある。
司会:海外のユーザーの購入がお客様のサイトで増えているということですが、サイズの問題は言われますか?
古田:今のところ、そういった(サイズが課題になるような)お客様を逃している状態だと思います。恐らく、先ほどの氷山の一角の話ですと、ある程度リテラシーの高い方で、かつこのブランドが好きっていう海外の方が、買っているケースが多いと思います。いわゆる指名買いのお客様しかまだ…。
オラウソン: 今の段階だと大ファンで、このブランド絶対ほしいって思っていて、どんなサイズでも、どんなカラーでも大丈夫!くらいに思っている方では。お金もいっぱい持っていて、合わないサイズでも平気で買い直すくらいの買い方している人とか。
司会: サイズどうこうではなく、そのブランドが好き。
一同:そうそう(笑)
上森:サイズの課題がクリアされていけば、売る側は当然、対象マーケットが広がるし、買う側も選択肢が増える。
消費者にとって、今まで国内や自分の知っているブランドだけしか購買対象になかったが、よりバラエティに富んだ選択が可能になる。我々が環境を整えることで、より楽しいより新しいECの世界を消費者の方に届けていける。やり方はさまざまですけれども、ECに関わる事業者皆が目指すところではあります。
司会:バーチャサイズは、アイテム同士をバーチャル上で比較することで、視覚的に判断できるサービスですが、実際に導入している企業ではどんな結果が出ていますか?
オラウソン:ウィゴーではバーチャサイズを使って商品を選んだユーザーの返品率が25%近く下がりました。ユナイテッドアローズで、バーチャサイズを使ったお客様の平均購入単価が20%以上増加しています。また実際に利用された90%以上のお客様が「サイズ選びに役立つ」と回答しました。
バーチャサイズは物と物を比較する仕様なので、“参考服”が必要になります。利用方法は2通りあり、ユーザーの手元にあるジャケットやシャツを採寸して実数を登録します。もう一つはECサイトでの購入履歴。バーチャサイズを導入しているリテーラーであれば、すべての購入歴が弊社側のサーバに一括保存されます。バーチャサイズを使って購入していない履歴も、保存されます。
例えばマガシークで買ったことがある人が、ユナイテッドアローズのサイトを訪れた際に、例え初回であっても、マガシークの購入履歴が引き出され、簡単に比較できます。自分で測る手間がないので、ユーザーさんには、どちらかと言えば購入歴の利用をお奨めしたいですね。まだまだ多くのユーザーが使い方に慣れていないのは課題ですが、:これから認識度が上がれば、一般的になると思います。
返品理由の内訳で、半分はデザインや色が写真とは違うといった理由で、残る半分がサイズやフィットに関係します。グローバルで見ても国内で見ても、同様です。
よってバーチャサイズの導入で、現状の返品の少なくとも25%、将来的には50%は減らしていけると見ています。
司会:お気に入りのワードローブと、買おうか迷っている商品の形、サイズを比べることができ、買った後も満足に繋がりやすいということなんですね。
オラウソン:ユーザーの購入履歴を活用したレコメンドエンジン「ファインドバイフィット」を開発・リリース予定です。仮に、ECをアイスクリームに見立てたら、アイスクリームがインターネットやブラウジングする段階。ECサイトがコーンで、購入は一番下の部分に当たる。バーチャサイズが搭載されているのは商品ページの購入直前。ブラウジングしている時などもう少し早い段階から、ジャストフィット商品を勧めたりして、ユーザーの背中を押したい。
ユーザー情報をいっぱい持っているので、いろんな段階でセールスに貢献したい。そうすればアイスクリームの中ほど―つまりマーケティング段階で、例えば個々メールマガジンでベストフィット商品を勧めるなど、パーソナライズマーケティングができるようになる。
#パーソナライズへの意識の高まり
司会:パーソナライズという言葉には、サイズ、言葉、リコメンデーションと様々な意味合いがあるが、要望は強まっているのでしょうか。
古田:少し前までは、とにかく大多数のその会員数を集めて、その母数に対してコンバージョン率の向上を追求するパターンでしたが、今は正しくパーソナライズが重要視されてきています。例えばXSを着ている方にはもちろん、XSだけの情報を送ったほうが良くて。お客様に必要な情報だけを、お客様ごとに送るにはどうしたらよいかが、今非常に重要視されてきていますね。サイズの情報もそうですし、例えば全然好みではないブランドや購入検討していないカテゴリーの商品を推すのではなく、カートに商品を入れたが購入に至らなかったお客様だけに、該当商品の値下げを案内メールを送るケースが、今増えてきています。
司会:カート落ちしたものに対してのフォローメールの類ですね。それこそ本当に店頭で受ける接客と同様のレベルの接客を受けたいっていうことの小さな一歩なんでしょうか。
オラウソン:パーソナライズは、タイミングが非常に重要です。ちょっとしたタイミングのズレで迷惑メールと受け取られたりしてしまう。ユーザーの行動の邪魔にならないように、自然な流れを崩さない上で、ちょうど欲しい時に便利な“道具”を発見してもらえるような、自然かつ控え目な露出のさせ方、案内の仕方が肝だと考えています。
古田:完全なシステム化と、アナログが融合にヒントがあります。例えば、お客様の特定の状況において、あるパターンの案内を出すというシステム的進化は進んでいますが、その時に併せて、実際に人間が絡んで、直接接客する。例えば、チャット接客などを組み合わせて、実際のリアル店舗以上のサービスをインターネットを使って提供するような動きや環境を作れたらいい。
多言語化、導入にたった5分
司会:アルゴリズム、オプティマイゼーション、AIといったこととにプラスして、実はチャットの裏側で人が瞬時に答えているっていう状況の組み合わせですね。グローバルのECではチャットで値下げ対応して購入に結び付ける、など耳にしますね。ところでチャットというと、言葉が絡むので、言語対応が大事になってきます。上森さんはどんなサービスを展開していますか?
上森:ウォーブンドットアイオー(WOVN.io)は、主にウェブサイトの言葉の問題を解決するソリューションです。ECを多言語化するには、大きく二つやることがあり、一つが多言語管理システムを整備しなくてはいけません。もう一つが翻訳です。
一つ目について、仮にシステム化しない場合、htmlを表示させたい言語の枚数だけ生成します。英語だけだったら何とかなるかもしれないけれども、これが3つ4つになるともう現実的ではありません。なので、それを管理する仕組みをECの場合は作る必要があります。これが多言語管理システムです。
これまで多言語化が進まなかった理由は、そのシステムの開発に約5千万円~1億円くらいかかり、期間も半年~1年以上とされていたから。儲かるかわからない状態で初期投資として必要で、それなら投資効果が高い施策が他にあるから後回し、というのが現状でした。この技術的な壁を突破したのがウォーブンです。SaaS型なので毎月定額の課金で初期費用一切なしで、多言語化のシステムを使うことが出来る。
既存のシステムと比べると大きく4つの特長があり、まず導入がとても容易です。早ければ5分くらいで導入できる。二つ目が、コスト。従来、初期に5千万円~1億円ぐらい。さらに会計上、(耐用年数によって)95%~70%の削減になる。なので、今まで払っていた、あるいは払おうとしていた5千万円~1億円の5%~30%の負担で導入できるようになる。
3つ目が、インターネット技術への対応。弊社はエンジニアが7割を占めて、彼らが常に新しいインターネット技術に対応していて、勝手に更新して提供しています。追加開発や追加見積もりがない。最後が、パーソナライズ。ブラウザ設定の話なのですが、ウォーブンを導入すると、アメリカ人は英語、中国人は中国語という風に、母国語がデフォルトで表示される。かつ、ログイン機能があるような動的サイトにも対応している。当然、ECはログイン機能が有り、ログイン前後で表示される商品って違うじゃないですか。ログインした後も多言語に対応しているっていうのが、すごく地味なんですけど技術的には高くて、それに対応しています。
さらにシステムとは別で翻訳に関して言うと、翻訳は3タイプあり、機械翻訳、クラウドソーシングを介したプロによる翻訳、ブランドのニュアンスまで伝えるスペシャル翻訳。グレードによってコストも変わるので、ページ特性によって使い分けてもらえたら、と思います。
今まで払っていた、あるいは払おうとしていた5千万円~1億円の5%~30%の負担で導入できるようになる。
司会:導入事例など、ご紹介いただけそうですか?
上森:事例というより効果で言うと、当然ながら海外からのトラフィックが増えます。すごく単純なんですが、日本語で日本の方にだけ届けていたものが中国語で中国の方も検索できるようになるので、その分、増えていきます。導入会社は海外のトラフィックが5倍とか、母集団にもよりますが数倍以上の効果は必ず見込めます。ただ、言葉を変えるだけでは流入しないので、認知向上施策も併せて行ってもらう必要はあります。
手始めに「+3言語」から
司会:だいたい3言語くらいから始めるんのでしょうか?
上森:1言語かつページ数が少ないと、無料で使えるので、数的に多いのは1言語です。ただECサイトはページ数が多いので有料に。となると1番ベーシックなのは、英語、中国繁、中国簡体の「日本語+3言語」です。これ以降、増やすとしたらインドネシアとかタイ語とかで、アジア圏で消費者数が多い順に追加していく会社が多いです。
古田:実際当社と一緒にやれないか、と話しているところです。今は、システム的な組み込みが終わっていて、ユーザーが見える一歩手前の所まで、来ています。
上森:我々は言語に特化した専門技術の会社なので、今後は最もクライアント企業に近い位置にいるAMSさんに課題を聞きつつ、僕らの方は多言語の開発に注力して、最終的なクライアント企業、AMSさん、ひいてエンドユーザーさんに高い価値を提供していきたい。4月中には、Webの代行・制作会社さん向けの新サービスをリリースする予定で、その第一号として、AMSさんと一緒にやることになります。
古田:トライアルして実際運用してみないとやはりなかなか課題が見えてこなかったりするので、ツールの提供にとどまらず一緒に情報交換させて頂きながらサービスの改善をやれるなと。
上森:多言語まわりでファッションに限らずたくさんのクライアントさんがいるので、そこから上がってきた課題を情報提供しながら、AMSさんの多言語部分のサポートをしつつクライアントさんのサポートもしていくようなスタンスです。
#テクノロジーの進歩と人の関わり
司会:少し切り口変えてお伺いします。機能やテクノロジーは明白に進んでいますが、担当者のスキルや社内全体の意識、売り場・販売員さんの気持ちなど、人に関わる部分の一進一退もまた、非常に大きいと感じますが、この部分についていかがでしょう?
さばききれない部分の人的支援
古田:EC化率が上がるにつれて、EC事業を社の中核に位置づける会社は増えています。単純に商品を買えるサイトだけであれば、比較的簡単に運営出来ると思いますが、実際それを大量の業務を兼務しながらやったり、ブランドのクオリティを担保したままのサービスをインターネット上でやろうと思ったり、今後ニーズとして強まっているパーソナライズとかサイズの問題ですとか、多言語とか海外ECとかに対応し始めると、業務のスケールやレベルが変わってきます。
消費者はますますいいサービスを受けたいと願うし、僕らもいいサービスを提供したいと思っていく。そういった環境下で、ソリューション会社の選定から運用方法の整備、社内の教育まで含めて、自社で全部手掛けるのは範囲が広くまた専門性も高いため、なかなか難しい環境にあるなぁと。そういった会社様が増えてくれば、ユーザーにとってはすごくメリットがあるし、実際そうなると思いますが、自社でやりきれない部分の人的支援の必要性を感じています。
例えば、いいソリューションサービスがあれは積極的に導入しつつ、それを実際利用されるブランドのスタッフさんに対してマニュアルを作ったり、評価制度を整えたり、店長会での教育支援を行ったり、今実際にやらせていただいて、結構踏み込んでいます。そういった意味で、サービス会社さんと組んで、実際本当に運用される方への教育も含めて、トータルでいいサービスを作る環境を整えていきたい。
運用マニュアルを作ったり、評価制度を整えたり、店長会での教育支援を行ったり、結構踏み込んでいる。
司会:一つお伺いしたいのが、その多言語機能を搭載していくにあたって、多言語で切り替えられるようになると、その切り替えた言葉が簡体字、繁体字で問合せが来たり、メールや電話でということになると思うんですけれども、その時は受け答えできるスタッフが必要ですよね?
古田:そういった意味で言うと、カスタマーセンターで多言語に対応していかなければいけないので、今ちょうど準備をしているところです。
上森:少し先の話にはなるかもしれませんが、海外のユーザーからのメールが機械ないしは人によって翻訳されて、どんな国からの問い合わせも日本人のオペレーターにとっては、あたかも日本人から来ているようなやり取りを実現できないか、考えています。
オラウソン:リアル店舗での接客のためにECツールを使い、パーソナライズな商品提案に生かす、というのも考えられます。今ちょうどそういう問合せが来ており、販売スタッフがバーチャサイズのリコメンドエンジンを使ったり、メンバーズカードの中に全ての購入履歴が入っているのでそのデータを活用すればもっと幅広い提案が可能です。接客時に、スタイルの提案だけでなく、新たにフィットから見た新着商品の紹介などができるようになります。
上森:今までお店で、店員さんに肩に合わせてもらっていたやつのリプレイスになるってことですね?
オラウソン:そうですね、それはやらなくてもいいですね。特に常連の方にとっても便利だと思います。
一同:なるほどー!いいですねー!
#ファッションの特性にどう対応するか
司会:今、ようやくカスタマイゼーションとかパーソナライゼーションが緒に就いたところで、まだ先の話かとは思いつつも、ファションは感性面がいつまでも重要な産業です。どれほどパーソナライゼーションを突き詰めたとしても、自分の想定を上回るような提案がなされた時にこそ、気持ちが上がるというのが、永遠にある世界かと思います。
サイズが100%合っているのに、上下のスタイリングのバランスが悪くて気持ちが上がらなかったとか、サイズが合っていないけれど、無理して着たらかっこよくて、それをやっぱり買ったとか、そういったことがいつでも起きてしまう。
一同:はい。
司会:これについては皆さんのお立場で考えることをお聞きできればと思います。
古田:システムが出来る所と人が手助けするという所はいつまでたっても残ると思います。人の力をインターネットの力にアドオンすることで、お客様にとってより満足出来る環境を作るか、だと思う。ここをこうしたら格好いいとか、最後は感性だったりするので、それってお客様と1対1でコミュニケーションしてご提案が出来る環境があれば可能なんじゃないかと。アパレルで最終ユーザーを満足できるようなサービス提供は、恐らくシステムの中に人が入っているようなサービスがではないかと。
上森:誰かの誕生日を祝う時にサプライズするのに似ていると思うんですよ。サプライズしたい理由は喜ばせたいからで、なぜ喜ぶかというと、想定以上のことを知った、とか予想外のことじゃないと特別な喜びってあんまりない。サプライズをするために、常に進化しなきゃいけない、一言でいうとそれだと思う。これがユーザー体験に関しても言えて、ECに来るユーザーさんが普通にただ買うだけと思っていたけれど、自分の好きなものが出てきたとか、自分のサイズが出てきたとか、アメリカ人の方が英語で表示してくれたとかっていう喜び。ある意味サプライズだと思う。そのために我々も常に技術を進歩させるとともに、お客さんの事も見て、新しいことを提供し続けて驚かせて喜ばせたい。
オラウソン:ちょうどそこで、フィットにスタイル提案を掛け合わせた「ファインドバイフィットサービス」がはまると思います。例えば今回シャツを買いたいとしたら、過去に買ったシャツを参考服にして、フィットという観点で近しい商品をランキングで表示します。フィットランキングです。
上森:サイズを一番優先するアルゴリズムということ?
オラウソン:そうです、まずサイズから優先されるんですね。さらに、まだデモ段階ですが、スタイルを選んだ上でサイズを指定すれば、ほとんど2クリックで自分にふさわしい物が出ます。かなりスピーディーに自分にフィットして、かつ自分が望むスタイル、欲しいカテゴリーに絞って提案されますので、感覚としては…一発でポン!っていう感じ。
上森:イケてますねこれ。
オラウソン:サイズは大事ですが、スタイルも大事。なので、スタイル+フィットで簡単に購入できれば面白いと、お客様から要望が出ていたので、新しいサービスとして提供することになりました。痩せたり太ったり体の変化もあるので、参考服に対して少しルーズフィットを選ぶとか、そんな選択もできます。
司会:なるほど。サイズという核のソリューションに、感性部分に当たるお客さんの好みやスタイルを乗せていくことで新しいサービスが出てくるんですね。
上森:常に新しい技術を取り入れて、地道に、最高のプロダクトを作り続けたいですね。そして最終的には、最終ユーザーにあたかも「ワンワールド」、つまり一つの世界にいるような環境を実現して、自由にストレスなく購買活動を楽しめるような世界を実現したい、という締めです。
司会:という形で、印象的なキーワードがバンバン出てきました。今日はありがとうございました。
一同:ありがとうございます。
オラウソン:いい機会ができまして、本当にうれしいです。