紀伊半島を縦横に走る熊野古道。世界遺産に初登録されて以降も、追加認証が相次ぎ今や外国人観光客に人気のスポットとなった。貸衣装屋さんもいくつか開業し、平安時代風の装束をまとった観光客も少なくない。「蟻(あり)の熊野詣で」と言われ、皇族から一般庶民までが列をなした往時のにぎわいさえ彷彿(ほうふつ)させる。
人々を見ていると、改めて、いにしえの衣装の華やかな色使いに気付く。例えば、表地に檜皮(ひわだ)、裏地に青を配した蝉(せみ)の羽色。夏の薄着によく用いられたという重ねの色目だ。貴族に限られた話かもしれないが、衣装にも季節感を盛り込み四季を楽しんだ平安人の感性に驚く。
梅雨明け十日を過ぎて酷暑が続き、蝉の喧騒(けんそう)も暑さを助長する感。汗を拭きつつ歩いていると、ぐちの一つもつい言いたくなる。ただ、一説によると熊野詣でが盛んだった平安時代から鎌倉時代も、今と同じくらい暑い時期があったようだ。マラリアによる死者も珍しくなかったらしく、平清盛の死因もそうでなかったかと言われている。
猛暑や極寒はつらいもの。とはいえ、厳しさを含めた四季の変化が日本特有の文化、感性を生み出してきたのも事実で、不便な極東の地に数多くの外国人が足を運んでくれるのも、ビジネスチャンスが生まれるのもこのためだ。蝉にぐちることなく、暑い日々を乗り切りたい。