【トップインタビュー】東レ株式会社 代表取締役社長 大矢光雄氏(PR)

2023/10/02 00:00 更新



 東レは今期から、3カ年の新しい中期経営課題「プロジェクト AP-G 2025」をスタートした。「新しい価値の創造を通じた社会貢献」を企業理念に掲げ、「持続的な成長の実現」「価値創出力強化」「『人を基本とする経営』の深化」など五つの基本戦略に取り組む。中でもサステイナビリティー(持続可能性)は重要な柱だ。繊維営業出身で、今年6月に代表取締役社長に就任した大矢光雄氏に中期の戦略について聞いた。

収益力向上へ意識改革

 AP-G 2025では、社会のサステイナビリティー実現と自社の成長を両立し、われわれのイノベーションによってそれを達成しようと考えています。持続的で健全な成長を実現するため、五つの基本戦略を掲げましたが、その中で特に「価値創出力強化」は重要だと思っています。前中経は、最終22年度の売上収益はほぼ目標を達成しましたが、事業利益は未達となりました。その反省を踏まえ、有形・無形の資産を最大限に活用し、収益力を高めていきたい。各事業に落とし込み、従業員一人ひとりの意識改革につなげる仕掛けを始めているところです。


 取り組みの一つが、当社が創出する価値を価格に適切に反映させる〝戦略的プライシング〟ですが、お客様と当社が互いにウインウインであることが大事です。価格が認めてもらえないということはコモディティ化していたり、他社と比較して競争力がないということでしょう。付加価値を高めた新たな商品の提供や、お客様の要請に応えるグローバルなサプライチェーン構築により、価値創出を具体化していきます。

内向きを危惧、もう一歩前へ

 五つの基本戦略の一つに「『人を基本とする経営』の深化」も挙げました。当社は1950年代から海外展開してきましたが、各地域で優秀な経営スタッフが育ち、人材も多様化しています。これから、投資の重点をサステイナブル(持続可能な)に集中させる考えですが、それにはグローバルな視点が求められ、自ずとこうした多様な人たちに活躍してもらう場が出てくるでしょう。国や文化が違う者同士、ベクトルを合わせることは難しいと思われるかもしれませんが、当社の掲げる理念は万国共通で普遍的なものだと思います。

 もう一つ、若手の人材流出が世の中で課題になっていますが、従業員がワクワク感や充実感、達成感を持てる会社にしていきたいと思っています。コロナ下で家にこもる時間が増えたことも背景にあるのでしょうが、チャレンジする気風が世の中全体に低下しているように感じます。それが当社にも当てはまると危惧しており、より積極的に外に出ていったり、横のコミュニケーションを強めるための活動にボトムアップで取り組むとともに、私自身も先頭に立って「フルスイングしよう」「もう一歩前へ出よう」と後押ししています。

GHG排出削減へ東レの出番

 サステイナビリティーについては、当社の成長領域の柱の一つを「サステナビリティイノベーション事業」と位置づけ、年率7%の売上成長を目指します。繊維に関して言うと、リサイクルポリエステル、ナイロンの「&+®」(アンドプラス)のような循環型社会の実現に貢献する商品が中期の柱になります。更に中長期を見据えると、ナイロンで先行しているケミカルリサイクルの拡大、また究極の目標は原料をバイオベースに置き換え、これをリサイクルすることでしょう。当社は2030年までに基幹ポリマーの原料の20%を再生資源化することを目標に掲げて、取り組みを加速しています。廃棄されていた非可食植物から糖を生成する基本技術を確立したほか、開発中の100%バイオベースのポリエステルも今中経の後半にはある程度量産が始まると期待しています。これまでは成長に伴ってGHG(温室効果ガス)の排出増が避けられませんでしたが、この削減に貢献することが当社に求められていますし、当社が持つ豊富な技術・素材の出番だと考えています。

リサイクル繊維ブランド「&+®」

さらなる飛躍に向けて

 繊維事業においては、東レ独自の革新複合紡糸技術「ナノデザイン」を軸にした成長に期待しています。ベースとなる原糸の技術だけでなく、撚糸、織り・編み、染色など各段階のノウハウを組み合わせ、サプライチェーン全体で価値ある工業製品に仕上げることが極めて重要です。グループ商社のネットワークも生かしながら、中国や東南アジアでもこうしたバリューチェーンを組み立て、その良さを最終製品でしっかり伝えていきたい。同時に、既存事業でコモディティ化した分野については見直しも必要です。繊維では、中身を変えながら高付加価値事業へと構造改革を行う〝リエンジニアリング〟に長年取り組んできましたが、これを全社で進めていきます。細かな事業単位で財務指標も用いながら検証し、高成長・高収益事業の拡大を目指していきます。

タイでは非可食バイオマス糖の生産体制を拡充


【profile】

1956年 6月11日 千葉県生まれ
2013年 5月
取締役 繊維事業本部副本部長 テキスタイル事業部門長
1980年 3月
慶応義塾大学 法学部 卒業
2014年 5月
取締役 繊維事業本部副本部長
東レインターナショナル株式会社 顧問
1980年 4月
東レ株式会社入社
2014年 6月
東レインターナショナル株式会社 代表取締役社長
2002年 6月
長繊維事業部長
2016年 6月
専務取締役 繊維事業本部長 大阪事業場長
2008年 4月
インドネシア・トーレ・シンセティクス社取締役
兼OST・ファイバー・インダストリーズ社取締役
2020年 6月
代表取締役 副社長執行役員
営業全般担当 マーケティング企画室・支店全般担当 関連事業本部長
2008年 6月
インドネシア・トーレ・シンセティクス社副社長
兼OST・ファイバー・インダストリーズ社取締役
2021年 6月
代表取締役 副社長執行役員
営業全般担当 法務・コンプライアンス部門(安全保障貿易管理室)・マーケティング企画室・支店全般担当 関連事業本部長
2009年 6月
産業資材・衣料素材事業部門長兼繊維リサイクル室長
2022年 5月
代表取締役 副社長執行役員
営業全般担当 法務・コンプライアンス部門(安全保障貿易管理室)・マーケティング部門全般担当 関連事業本部長
2011年 6月
産業資材・衣料素材事業部門長
2023年 6月
代表取締役社長 社長執行役員
2012年 6月
取締役 繊維事業本部副本部長 産業資材・衣料素材事業部門長


https://www.toray.co.jp/

企画・制作=繊研新聞社業務局



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