原綿からテキスタイル、製品に至るまで個性豊かな事業会社を保有する豊田通商。総合商社ならではのバリューチェーンを強みに、ファッションビジネス業界で確固たる存在感を示している。繊維・ファッションビジネスの現状については、パイが小さくなり、有力プレイヤーも少なくなっていると分析。不確実な時代と受け止めているが、豊通らしさを大切にしながら、総合商社の新たな役割を探し求めている。なかでも縫製の自動化に対する意欲は高い。
一言で表すならば、不確実な時代
―総合商社は繊維・ファッションビジネスで重要な役割を担ってきた。
今の繊維・ファッションビジネスを一言で表すならば、不確実な時代、です。国内マーケットのパイは縮小し、勝ち組と言われるプレイヤーも少なくなりました。商社の主力事業である製品OEM(相手先ブランドによる生産)の採算性も厳しくなり、撤退する会社が現れても不思議ではありません。総合商社の繊維ビジネスのあり方も、しっかり考えていく必要があるでしょう。
―繊維・ファッションビジネスは効率化が課題となっている。
自動車関連のビジネスに携わる方とよく話すのですが、繊維業界の各工程における自動化は、自動車業界よりも進んでいます。確かに生地を織る工場や染色工程では自動化が進み、工場を見ても人の数が少ない。ですが、最終の工程である縫製については人海戦術に頼る部分が大きいのです。つまり各工程では自動化がかなり進んでいるにも関わらず、縫製の部分がボトルネックになっています。縫製工程での自動化に成功したところが生き残っていくのではないか、と考えます。
―縫製の自動化への関心は従来以上に高まっている。
自動化を実現できるのが、縫製工場なのかメーカーなのか商社なのかは分かりませんが、自動化を実現することが我々の役目だと認識しています。自動化を開発し、担うのが商社であるという可能性を追求したい、と強く思っています。
広く、浅くから、広く、深く
―総合商社であることのメリットは。
原料からテキスタイル、製品、ブランド、小売りまで、全てに関わることができる部分でしょうか。豊田通商グループには、綿花を取り扱う東洋棉花、テキスタイル、製品OEM、ブランドの豊通ファッションエクスプレス(TFE)、製品の福助など多彩な事業会社が所属しています。そして各段階に人材が揃っているのが総合商社です。これらの人材をさらに育成しなければなりません。
商社パーソンは本来、広く、浅く、というのが特徴かもしれませんが、事業会社に派遣されている間はその分野を深く掘り下げます。つまり個人が広いだけでなく、深く、成長していくことで、組織全体も広く、深くなっていきます。この進化が商社のビジネスにとってプラスに作用していくのです。
出口としての小売りを意識
―バリューチェーンを構築しているが、仮に付け加えるとすれば。
出口としての小売りでしょうか。小売り以外は備わっていますので。出口を意識しないといけないと感じています。M&A(企業の合併&買収)も含めて考える必要がありますが、既存事業とのシナジーが生まれない投資には興味がありません。飛び地への投資は、仮に上手くいったとしても、何のシナジーも生じません。今ある事業をどうやって伸ばしていくか。この観点を大事にしながら投資を考えていきます。
―アパレル事業部の業績については。
18年3月期は、増収で利益は横ばいでした。増収は輸出とりわけ透湿防水素材「ゼラノッツ」の好調が寄与しました。ゼラノッツは3年連続で過去最高の数字を確保しています。機能性だけでなく、環境配慮型の商材が欧州で高い評価を受けています。製品OEMはスポーツ分野が好調でしたが、カジュアルが厳しい状況で推移しました。小平智プロの活躍もあって、「アドミラル」はゴルフウェアを中心に好調です。ライセンスビジネスの規模は現在35億円。50億円への拡大を視野に入れています。
整理を終えて、これからは整頓
―事業会社の運営については。
事業会社同士の連携をこれまで以上に強めます。すでにフェアトレードコットンで実績がありますが、各々の強みや機能を融合させて、顧客に最適な商品を供給していきます。事業会社は過去に様々な改革を推進し、整理を終えることができました。今後、実行するとすれば重複する部分を減らすといった整頓でしょうか。その中で事業の大玉化を進めていく方針です。
―TFEが準備しているベトナムの縫製工場の稼動が近い。
12月の稼動を予定しています。アタゴ、台湾の得力という強力なパートナーと一体で運営しますので、ご期待ください。
2021年トピックス
非衣料の強化が進んでいる
今が不確実な時代ですので、3年後を見通すことはなかなか簡単ではありません。総合商社の繊維・ファッションビジネスのあり方を予測するのもなかなか難しいですね。ですが、大きな方向性としては、非衣料の強化が進んでいるでしょう。アパレル事業部の取り扱いは現在、衣料と非衣料が80:20。3年後には50:50 にする方針を出しています。衣料分野ではTFEのベトナム縫製工場が本格的に拡大し、様々なものを開発できているではないでしょうか。出口戦略としての小売りに関しても道筋をつけているでしょう。そして引き続き事業の整頓は実行していると思います。
http://www.toyota-tsusho.com
(繊研新聞本紙6月22日付け)