一昨年に創立90周年を迎えた東レは、現在実行中の中期経営課題「プロジェクト AP-G 2019」で19年度の売上高2兆7000億円を目標に成長を続ける。繊維事業も国内メーカー初の売上高1兆円が目前に迫るなど、世界有数の繊維企業の地位を固めつつある。
「素材には、社会を変える力がある」――将来の変化を見据え、開発に挑むDNAが今も受け継がれ、持続的な成長へとつながっている。日覺昭廣社長に東レのこれからについて聞いた。
10年先の変化を見据える
将来、世の中に必要とされるものを徹底して研究するのが東レのDNAだと思います。その最初の例が、戦中に独自に開発したナイロンでした。しかし、新しい素材だからお客さんが飛びついてくれるということはありません。大がかりなマーケティングとプロモーションによって、市場を開拓できました。
このDNAは、水処理膜やフィルム、炭素繊維といった事業に脈々と受け継がれています。いずれも1960年代に研究を始め、技術開発や用途開拓の苦労を経験しながらあきらめずに世の中に拡げていきました。10年先を見据えて時代がどう変化するかを考えることが基本的な考え方です。これがわれわれ素材メーカーにとって重要だと感じます。
これからも地球規模での人口増や、高齢化、環境問題など世の中は大きく変わっていきます。そこでわれわれが色々な素材を提供することが出来るし、社会にも貢献できる。日ごろから、「素材には、社会を変える力がある」といっているのもそのためです。
私たちはこれまで社会の変化に対応してきましたが、決して「時流に迎合した」訳ではありません。時流というのははやりすたりで変わるものですが、そうではなく、時代の変化を読み、当社のスタンスで挑むことが大事だと思っています。世の中の方向性をしっかり見極めて手を打ったことで、逆風の時期も乗り越えられたと思っています。
目標に向け、順調に成長
20年近傍を見据えた長期経営ビジョンでは、売上高3兆円、営業利益3000億円の目標を掲げています。売上は順調に拡大しつつありますが、利益面は原燃料価格の上昇などの影響があり目標通りに進捗していません。ただし炭素繊維関連での買収や様々な事業で投資を実施し、手を打っているので、これらが稼働すれば、20年以降に売上高・利益で貢献してくれると期待しています。
繊維事業はグローバルに拡大しているポリプロピレンスパンボンドやエアバッグ基布などが成長しており、今期(19年3月期)は売上高が1兆円近くを見通せるところに来ています。AP-G 2019では最終年度に売上高1兆1200億円、営業利益920億円を目標にしていますが上振れも狙えるとみています。
基礎研究に力入れ、新事業の種まき
次の中期は、同じく10年後の30年ごろの長期ビジョンを見据えながら、当面の課題を策定することになります。30年ごろに社会がどう変わるか、一つは環境問題がさらにクローズアップされます。特に中国の環境規制によって粗原料も加工もプレーヤーが絞られてくるでしょう。当社にとっては将来の環境関連の素材開発で貢献するチャンスが出てきます。
一方、当社では、20年代に計1兆円規模の事業になるような新事業の創出を目指し、「Future TORAY‐2020s(FT)プロジェクト」を進めています。ここでもバイオ由来製品への転換や人口増加と高齢化の進行など社会の変化を見越し、水素・燃料電池車向けや健康・医療関連の開発テーマなどを設定しています。
今注目のAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)は、ハードの進歩があるから可能になっていることが多くあります。例えば自動運転もセンサーの進化があるからこそ。当社もセンシングデバイス関連部材に力を入れていますが、素材メーカーがそういう技術を可能にしているということを改めてアピールしていきたい。
また、ソフトに注目が高まると、学生の勉強もシミュレーションなどに偏り、現場を知らない弊害が出ています。若手研究職の再教育も行いながら、基礎研究に改めて力を入れ、新素材を開発提供することで、素材メーカーとして今後とも社会に貢献していきたいと考えています。