時代の節目に沿って服づくりも変遷 ジュサラ・リー(杉本佳子)

2026/08/10 06:00 更新NEW!


パッチワークして刺繍を加えたトップとジュサラ・リー

 ジュサラ・リーは、ブラジル生まれでニューヨークをベースとする韓国人ファッションデザイナーだ。かつては自分の名前を冠した既製服のブランド「ジュサラ・リー」で毎シーズンコレクションを発表し、15年間卸し売りを継続。バーグドルフ・グッドマンに卸していたこともある。9.11アメリカ同時多発テロ事件、コロナでそれぞれ転機を迎え、服作りに対する考えがかなり変わったリー。この9月、20数年ぶりにニューヨークファッションウイークで新作を披露することになったリーを、コネチカット州にある自宅兼アトリエに訪ねた。

≫≫杉本佳子の過去のレポートはこちらから

 リーがミートパッキング地区に小さな直営店をオープンしたのは2001年、9.11アメリカ同時多発テロ事件の直後だった。奇しくも当時トライベッカに住んでいて惨状を目の当たりにしたリーは、テロ事件を機に世界に目を向け始め、アメリカという国は他の国の痛みを犠牲にしている、だから嫌われると考えるようになったという。

 テロ後は不景気になって卸し売り先からオーダーをキャンセルされたため、リーはカスタムオーダーに特化し始めた。小さな店だったが、著名な建築家のラファエル・ヴィニオリに店舗デザインを依頼し、高い天井まで布を積みあげるなど、ストリートから見てもインパクトのある内装にした。

 当時、店の隣には、ミートパッキング地区で一番人気があったと言っても過言ではないレストラン「パスティス」があった。つまり人通りが多く、飛び込みで入ってくるお客で商売が成り立っていたという。

 その後、ウエストヴィレッジの角地に店を移転した。裕福な住民が多い地域で、彼らはカスタムオーダーや小規模のアルチザンを好んだ。すでにたくさん服を持っているから、他にないものを求めていたのである。カスタムオーダーをやることで、生産量は減るが単価は高くなり、1着1着の服のディテールにより時間を割けるようになった。同時にリーはその店で天然染め、手刺繍、ブロックプリント、お直しのワークショップを始めた。ホリデーシーズンにはお客にセーターを持ってきてもらって、毛羽をとったり虫食いの穴を刺繍で塞いだりするイベントも開催。そうしたことが他店との差別化につながったという。

 そしてコロナがやってきて、ついに店を畳んだ。4年前に現在の家に移り、今はお直しと残布で仕立てた新しい服の両方を手がける。家の中で使う電気は太陽光熱でまかない、庭ではたくさんの野菜とハーブを育て、食材のゴミはコンポストで堆肥にする。サステイナブルの取り組みは服だけでなく、日常生活でも意識して取り入れている。

 それでもリーは、「お直しは楽じゃない」と語る。理由を聞くと、「お客さんはお直しにお金をかけたがらない。ほどいて作り直すと手間が2倍になる。お客さんは時に“クレイジーな期待”をもっていて、それが事態を複雑にする。どうしたいかをうまく表現できないことがあるから、こちらが意図を上手に汲み取らないといけない。モノクロがいいのか色を使いたいか、ミニマリストなのかリスクテイカーなのか、どういうスタイルが好きなのかわかっていないといけない」との答えが返ってきた。

虫食いの穴を刺繍で隠したロロピアーナのベビーカシミアのカーディガン

 リーは「お直しをする時、元々の服より少しファッショナブル、少しスペシャルな感じになるように服の価値を上げたい」と話す。そのために、ハンドステッチはとても役に立つそうだ。メンズテーラーリングのテクニックを婦人服に取り入れるのも、服の価値を上げる上でリーがよく使う手法だ。

メンズのテーラーで仕立てたパッチワークのジャケット
鹿の刺繍を加えたパンツ
テープ状にした布で模様を描いたドレス

 リーが新しい服を作る時は、残布をパッチワークしたり刺繍を加えたりすることが多いが、確かな仕立てと質の高い刺繍のおかげで、アップサイクルした服とはいえ、完成度が高い。機織り機で布を織ることもあるが、古びたプラスチックのテープを織り込んだ布は、言われなければそうとはわからないものもある。

古いプラスチックのテープを手織りの布に加えるジュサラ・リー

 リーがCFDA(アメリカファッションデザイナーズ評議会)のメンバーに復帰して、9月のファッションウイークでどのようなコレクションを見せるのか、今から楽しみだ。

≫≫杉本佳子の過去のレポートはこちらから

89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ



この記事に関連する記事