「男と女の間には深くて暗い河がある」。シニア層なら一度は耳にしたことがある昭和の名曲『黒の舟歌』の一節だ。男女の間だけでなく、対象を理解したいけれど難しく感じることは少なくない。LGBTQ(性的少数者)や障害者への配慮・理解促進の活動の取材をすると、必ず出てくる言葉に「当事者」「非当事者」がある。間に「河」があるからこそ使われるのだろう。
悩みや問題を抱える人に寄り添うには、当事者の身になって考える必要がある。ところが多くの場合、当事者にとっての現実が実感できないため、問題を言葉でしかとらえず他人事で処理してしまいがちだ。SFじゃあるまいし、体を入れ替えることはできないが、想像力を働かせて相手の立場や思いに近づくことはできる。
想像力は夢を生み、夢は現実に向かう。冒頭の歌詞はこう続く。「誰も渡れぬ河なれど、エンヤコラ今夜も舟を出す。ROW & ROW(中略)振り返るなROW」。必ずたどり着けると信じてこぎ続けることに、社会の本質がある。
(樹)