《視点》一張一弛

2023/03/28 06:23 更新


 茨城県水戸市にある偕楽園は日本三名園の一つに数えられる。1842年に水戸藩第9代藩主の徳川斉昭が「民と偕(とも)に楽しむ」思いで開園した。その1年前に開校したのが水戸藩の藩校、弘道館だ。弘道館と偕楽園は一対の施設として作られた。

 諸政策の中でも教育に熱心だった斉昭は、この二つを設計する上で「一張一弛(いっちょういっし)」の思想を大事にした。よく学び、よく遊ぶという考えで、どちらも大切だということ。弘道館で形成された学風は、のちに明治維新の原動力になっていった。

 一張一弛の哲学が息づく土地で、70年前に産声を上げたのがアダストリアだ。コロナ禍でも業績は順調。企業の買収や新規分野の開拓などに次々と着手し、事業を拡大している。同社が元気な理由に人が大きくあると見る。木村治社長は若い時、「(福田三千男)会長に失敗をしなさいと教わった」と話す。失敗に学ぶものは多い。恐れずチャンスを与え、成長し続ける文化の土壌が、そこにある。

 取材で会う同社の社員や役員の表情はいつも明るい。語るまなざしは真剣だが、仕事を楽しんでいるのが伝わる。ファションでわくわくや幸せを人に届けようという願いが社員にも届いているのだろう。企業の生命の源は人にある。社員がのびやかに、生き生きと働ける環境が、絶え間なく変化する時代で生き残りを分かつのかもしれない。

(麻)



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