ある商社のトップは昨年から今年にかけ、原材料高騰などの価格転嫁への理解を求めるために販売先を回った。「現場が苦労している中で、やれることをやろう」という思いからだ。その中で「〝円安だから〟というお願いは一切していない」と話していたのが印象的だった。
10月に入ってから1ドル=150円の大台を超えるなど32年ぶりの円安水準となり、為替相場は激変している。原材料や海上物流費の高騰は続いているが、今後企業にとって重くのしかかり、ビジネスを難しくする要因の大きな一つが円安なのは間違いない。
では、なぜそのトップが為替について言及しなかったか。理由は「円高の時もあるから」とシンプルだった。確かにインフレによる原材料費や物流費高騰を価格転嫁するのは理解できるが、「どう振れるか本当に分からない」と多くの経営者が口を揃える為替を価格転嫁するのは本質的には違うように思う。さらにここで為替を引き合いに出すことが、後々のビジネスをより複雑にする可能性もある。
といっても、現場レベルではかつてないほど困難なビジネス環境なのは間違いない。せめて、大きな値動きをせず、安定してくれることを祈る。
(森)