繊研ファッションビジネス懇話会は年明けの6日、日本総研の寺島実郎会長による講演を行った。寺島氏の新年の講演はすっかり恒例行事として定着。最新の経済指標をもとに、その年を「定点観測」する内容は示唆に富む。
コロナ禍で政府や財界は「経済を回す」という言葉をよく使う。これに対して、寺島氏は「経済は『経世済民』、世を経(おさ)め、民を済(すく)うことだが、アベノミクスでは実体経済は動かず、国民に恩恵はなかった」と総括。非正規労働の増加や勤労者の貧困化が、コロナ禍により直撃している状況を指摘した。
アベノミクスで株価は上昇したが、一方で実態経済は回復が遠い。可処分所得や家計消費支出は19年時点でも、ピーク時と比べればまだ水面下。その間に国民の貧困化が進み、年収200万円未満の雇用者は全体の3分の1を占める。衣料品関連の消費支出が19年と00年の対比では35%も減っているのも、こうした背景からだ。
ファッション関連ではこの間、中間層の減少によりデフレ型ビジネスが成長した。今後は富裕層、高齢者、そして中国などアジアの成長をどう取り込めるかがカギになる。コロナ後はマクロな視点からの戦略立案と実行力が問われる。
(矢)