「他にないものが求められている」。記者は主にテキスタイル企業を取材しているのだが、17年はこの話を特によく聞いた。合同展示会ではそういった差別化機運をつかもうと、各社が〝他にないもの〟を競って出展していた。
「でも、商談を終える数カ月後にはベーシックで、みんな同じようなものに落ち着くんだよね」と話すのは機業場の営業担当者。その機業場の主力はジャカードで、もともと華やかな生地が豊富に揃うが、バイヤーが選んでいくスワッチはひときわ個性的なデザインが多かった。「展示会で人気のあったものと実際に売れるものは全然違う」と首を垂れる。
スワッチのリクエストがあったテキスタイルでも、日の目を見ずに終わることは珍しくない。なぜ採用されなかったのか、自分のアイデアに何が欠けていたのか、どこが市場に合わなかったのか、フィードバックを得られないまま、次のシーズンにまた〝他にないもの〟を求められる。
一機業場でも、マーケットを見据えて提案することは今や必須。だが、当たり前ではない。「地方で物を作っていると、一人よがりになりがち。もっと本音の意見がもらえれば」と先の機業場。店頭で差別化するための〝他にないもの〟。それを作り手のアイデアに任せきりにしてしまっていいのだろうか。
(侑)