長らく訪れていなかったバーにふと寄った。重たい思いをせずにお酒もネットで安く買える時代。ただ味わって酔うだけなら家で十分。何倍ものお金をかけて得た満足は、バーテンダーや客同士の会話、落ちついた空間が生み出す心地よさだったように思う。
同じものを買うなら安い方がいいと思う人が大半だろう。価格を比較して商品を買うのならネットが一番便利。一方で値段が高くてもあの店で、もしくはあの人から買いたいと思う消費者も間違いなく存在する。便利さ以上の満足を与えるのが接客だとも言える。
商品の価値は人によって違うとは言え、それぞれの中では大きく変化することはない。最大の付加価値はそれを扱う人に拠ることが多い。ECの話題が出ない日がないほど、ネット販売の影響力は強まっている。その分「それでも結局、最後は人ですね」で終わる会話も増えているように思う。
あるアパレル企業で聞いた話。老人ホームの販売イベントに出向いた若い営業マン。目的は当然、商品を売ること。ところが商品よりも彼に人気が集まった。「次はいつ来てくれるの」と心待ちされる存在に。企画した施設の職員や企業の思惑とは別のニーズが生まれたが、結果的にその後も商品は予想以上の売れ行きらしい。(樹)