DtoC(メーカー直販)へシフトを強める流れは鮮明になったが、卸売りとバランスを取ることが大事という意見が一般的だ。卸売りを減らすことはあくまでも必要に迫られてたどり着いた選択肢である。ただし現時点では、対面式でバイヤーに見せられる機会は限定される。国外となればなおさらだ。その結果、多くのブランドが頼っているのがデジタルショールームだ。
【関連記事】《米国のデザイナービジネスはどこへ②》DtoCへシフト進む
「エンジニアドガーメンツ」は7月半ばから後半に予定している21年春夏のデジタル展示会からバーチャルショールームのジョアを利用する。ニューヨークのショールームに来られる人は来てもらい、来ないバイヤーにはジョアを通じて見せる。エンジニアドガーメンツの鈴木大器氏はジョアを選んだ理由を「圧倒的なシェア」と説明する。
ジョアのシステムには、8600以上のブランドと20万以上の小売店が集う。小売店はブランドから招待を受けないと入れない。加入ブランドが既に取引している小売店のみが加入できるため、ブランド側には安心感があるに違いない。ジョアのクリスティン・サヴィリアCEO(最高経営責任者)によると、2月以降ジョアに新しく加わったブランド数は、通常の月に比べて5倍のペースで増えているという。ジョアの手法と規模が、対面でバイヤーに会えないブランドのニーズにしっかり合致している証拠だ。
ジョアはファッションウィークと合同展のための「パスポート」と名付けたプログラムも持ち、ロンドン・ファッションウィーク、プレミアム+シーク、カバナ、リバティーフェアーズ、楽天ファッションウィークなど、提携先が増えている。サヴィリアCEOは、「新しいものを発見し新しい関係を築いていくことは、小売店にとってもブランドにとっても大事だし、それが合同展を訪れる重要な理由になってきた。ブランドはオンラインでバーチャルショールームをつくることで、どこにいても誰とでも情報共有できる」と語る。
ただ、デジタルで情報共有はできても、五感で商品を感じることにおいてデジタルが対面式を上回ることはないのではないだろうか。ジュリー・ギルハート氏も、「服を触ることが買い付けのプロセスの中で極めて重要なことは確かで、触ってみることでバイヤーは自信を持ってオーダーできる。デジタルのレンダリングや360度見られる写真で服を判断するのはとても難しい」と、デジタルショールームの壁を指摘する。
バイヤーと直接会った時にかわす何気ない会話も、絆を強めたり、インスピレーションになったりすることがある。コロナは、秋にも第2波が来ると言われている。先物のオーダーが入っても、またいつどうなるか分からない不安定な状況だ。ブランドは再び危機が訪れた時、一方的にオーダーをキャンセルされないよう、主要得意先とは今まで以上に強固なパートナーシップを築く必要がある。
バイヤーとの良い関係は、会ってみて構築できる部分が大きい。「3.1フィリップ・リム」のウェン・ゾウCEOは、「我々は卸売りのパートナーたちとともに会社を興し、ともに成長してきた。自分たちの卸売りパートナーたちが大好きだし、彼らをサポートし一緒にビジネスを作っていくことに躊躇(ちゅうちょ)しない」と卸売りへの愛着を示す。そして、「みんなコレクションのプレゼンテーションをバーチャルやデジタルで見せることに慣れてきているけれど、それでも顔を合わせてハグをすることがどんなに好きかよく分かっている。そうした対面のつながりが、またすぐ再開できるようになってほしい」と語った。
(繊研新聞本紙20年7月7日付)