上田安子服飾研究所は、1回目となる上田安子服飾研究所セミナーを11月に上田安子服飾専門学校で開いた。「アパレルブランドと美術館のビジュアルマーチャンダイジング」をテーマに、VMDのコンサルティングから施工までを手掛けるヴィジュアル・マーチャンダイジング・スタジオ(VMS)の堀田健一郎代表と、大阪中之島美術館の菅谷富夫館長が対談した。上田安子服飾専門学校の山田浩之副校長が案内役を務めた。
(藤本祥子)
VMDではなくVM
山田 各業界の空間演出の捉え方について。
堀田 欧米をはじめとした外資と、日本やアジアの企業・ブランドとで異なる。日本はほとんどがまだVMDと呼んでいるが、当社や外資系の企業はVMと呼び、ビジュアルでマーケティングもするし、マネジメントもするという風に多様な発想がある。
日本はどちらかといえばまだ点で見せる発想だが、VMはあくまでカスタマーエクスペリエンスの一つ。〝新しい〟〝面白い〟〝共感〟などを五感へ訴えて拡散していくもので、最近ではあえて服を置かないで訴求するブランドも見られる。欧米ブランドの中でも、ブランドによって繰り出すことが違う。近頃は如実に違いが出てきている。
菅谷 美術館の視点では、まず作品を見て、理解してもらうことが重要。照明の当て方や大小・強弱の活用、移動式の壁(仕切り)を使った導線作り、作品を保護する結界をソフトなイメージにするなどの工夫をしている。しかし、作品なのでどうしても思い切ったことはできない。
堀田 大小のリズム・強弱を生かす点は、互いに一致していると思う。
菅谷 もっとこう見せられれば、という葛藤はあるので、作者側とけっこうやり取りをすることもある。ただ、向こうからの注文はものすごく多い。
堀田 VMDに関しては、国内ブランドはほとんどこちらにお任せしてもらう形で進めている。海外は非常に厳しいところもある。
欧米が日本より先行
山田 サステイナブル(持続可能な)推進時代における空間演出について。
菅谷 入口を張り替えて使いまわすなどしているが、作品を運ぶ木箱は何とかもっとうまく使えないのかとは思う。日本の方が海外よりもまだ環境負荷の軽減について問題化はされていない。欧米は神経質になってきている。ただ、こうした取り組みだけが進むと、演出の余地は小さくなっていくので、業界の中で危惧(きぐ)はされている。日本でもこれから議論は進むだろう。
堀田 日本人は、もともと国民性として長くものを大事にすると海外から見られている。業界では廃棄衣類繊維などを原料とした繊維リサイクルボード「パネコ」を使った什器などが出てきている。ある海外のクライアントとの仕事ではSDGs(持続可能な開発目標)やダイバーシティー(多様性)の観点から、細かい点を指摘されたこともある。非常に進んだ海外企業もある。
菅谷 結局はバランスの問題だと思う。
堀田 外資と日本とではまだまだ差はあるけれど、日本も5年前よりは意識され始めている印象はある。やはり若い人の方が感度は高く、タイの「ピパチャラ」のようにアジアからもこうした意識の高いブランドが出てきている。