東京ブランドのメンズの24年春夏展示会で、異なる要素を掛け合わせるハイブリッドなスタイルが目を引いた。色やテクスチャーが個性を主張しながらも、オーセンティックな形を外さず、スマートな輪郭で見せる。
(須田渉美)
「エムエーエスユー」(後藤愼平)は、80年代以降の子供たちが遊んだドールハウスの動物のキャラクターを発想源に、パステルカラーの〝カワイイ〟世界を広げた。「子供の頃に魅了された存在って、大人になって見ても胸がキュンとする感覚がある。様々な情報にあふれるなかで、そういった共通言語を大事にしたい」と後藤。
フロッキー加工によって、動物のキャラクター同様の起毛した風合いを表現したGジャンやフーディー、プリーツスカート。ハリのあるシルエットのピンク、ライトブルー、クリーム、グレーといった配色もリアルだ。トレンチコートやボマージャケットなどミリタリーの定番は、パステルカラーのサテンを使い、フェミニンなムードで見せる。テーラードジャケットには、立体の花型スタッズが付く。メンズ仕立ての作りはそのままに、キュートさを交える大人の遊びが楽しい。デニムのバギーパンツは、ピンク味を帯びたウォッシュド加工が新鮮だ。一貫したクリエイションによって、個性的なアイテムが揃った。
「ジエダ」(藤田宏行)は、プレッピーをベースに、柔らかなムードのミックススタイルを見せた。コットンメッシュのフーディーにチルデンセーター。ケーブル編みをグラフィカルなダイヤ柄へとアレンジする。機能素材や機能ディテールの入ったパンツを交えてすっきりと見せる。コレクション全体を通して、「ジャストフィットめのアイテムを増やす」など、軽やかなバランス。ドリズラージャケット、デニムブルゾン、テーラードジャケットは肩の縫い目を落とさずに程良いサイズ感だ。パンツもワイドなボリュームを強調するのではなく、立体裁断を取り入れたシルエットでシンプルな着こなしにメリハリを出す。
21年秋冬にデビューした「キミー」(キムヒョッス)は、ハイブリッドな物作りを強みに、国内外で実績を上げる若手の成長ブランドだ。韓国出身で東京で育ったデザイナーのキムは、高円寺や原宿の古着に慣れ親しみ、独立前は有力スポーツブランドで経験を積み、手仕事とテクノロジーの融合に向き合う。定番のトレンチコートやCPOシャツは、日本のボロや韓国のポシャギのパッチワークをジャカートで表現したチェック柄の生地を使い、トラッドなエレガンスを新鮮に見せる。24年春夏は、過去と未来の融合をテーマに、1860年代のプリント生地を忠実に再現。パジャマシャツやスポーティーなメッシュ素材を重ねた薄手のジャケットを作った。半被をベースにした和洋折衷の作りによってリラックスした着心地に仕上げている。
今秋冬にデビューする「ティーエスティーエス」(佐々木拓也、井指友里惠)も、ユニークな発想が光る。デザイナーの佐々木は、ここのがっこう、アントワープ王立学院で学んでコレクションブランドに携わり、井指は「カラー」でメンズのパタンナーを務めた経験を持つ。ベーシックな形のワードローブに、誇張した柄や変化のあるテキスタイルを落とし込み、「緊張と緩和」の二面性を表現する。
24年春夏は永遠の別れに向き合った自身の経験と、クリスチャン・ボルタンスキーの作品「最後の時」に対する思いを重ね、幻想的な光のテクスチャーを生かしたコレクションを制作した。ステンカラーのコートやバミューダパンツは、コットンの基布にポリカーボネート系のコーティングを施し、インダストリアルな強さを感じさせる。光ファイバーのコードをマクラメ編みしたベストも作った。シャツの下に着用して電気を通すと、七宝柄が浮かび上がってファンタジック。