イエール国際フェスティバル グランプリ プルミエール・ヴィジョン賞をうらなう(松井孝予)

2023/09/28 06:00 更新


38e FESTIVAL INTERNATIONAL DE MODE, DE PHOTOGRAPHIE ET D’ACCESSOIRES - HYERES

またいつもの如く突然ですが、イエール国際フェスティバルのモードコンペティションのグランプリ、Première Vision(プルミエール・ヴィジョン、PV)賞の行方が気になるシーズンとなりました。

南仏のコートダジュール、その名の通り紺碧の海に面したイエール市の丘にあるヴィラ・ノアイユで毎年10月に開かる同フェスティバル。今年は12〜15日に開催されます。

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そのメインとなるのがモード、フォト、アクセサリーの3つのコンペティションです。中でもグランプリのプルミエール・ヴィジョン賞を賭けたモードはメインの中のメイン!ヴィクター&ロルフ 、アンソニー・ヴァカレロ、ボッター、日本からは松重健太、富永航らを輩出してきた「若手クリエイターの登竜門」。2019年には特別審査員賞に「リコール」が文字通り特別に枠で受賞しています。このイエールからアンダム賞、そしてLVMHプライズへとフランスでのコンペティションのステップがはじまります。

PVがこのグランプリの提供をはじめてから今年で11年。受賞者への奨励金は20000ユーロ。副賞としてPVパリ2月展の会場でグランプリコレクションが展示されます。

コンペティションへのエントリー

イエールのモードコンペティションへのプロセスは、作品をイエールに国際便で送る→審査→ファイナリスト10名発表→プルミエール・ヴィジョンの出展サプライヤーと素材選び&開発→フェスティバルでコレクションのプレゼンテーション&ショーで披露→各賞発表、となります。

エントリーは、オンラインではなくフィジカル。つまり実物を送らなければならず、応募者サイドでコストが発生してしまうことがネックなのです。

一方、イエールだけのスペシャルな点は、ファイナリストはPVの出展社と素材を開発しながら、最終審査に向けたコレクションを制作できること。昨年のPV賞を受賞したジェニー・ヒトマン(フィンランド)は、イタリアのエメテックスとフューチャーな素材を開発しました。

2023年の審査員たち

コンペティションの審査団は10〜11人。審査員長を含めその半数以上が毎年入れ替わります。今年の審査委員長は、38年の歴史を持つこのモードコンペティションで最年少となる26歳のシャルル・ドゥ・ヴィルモラン。イヴ・サンローランの再来と言われ、パリ・オートクチュール組合校卒業と同時に自身のブランドを立ち上げ、パリ・オートクチュールにデビューし、イヴ・サンローランの再来と話題をさらった美貌のクリエイター。24歳で「ロシャス」のクリエイティブディレクターに任命され、今年4月退任。

バラの種類などを開発する園芸の大家ド・ヴィルモラン家の出身、 "Madame de"で知られる作家ルイーズ・ドゥ・ヴィルモランは大叔母にあたります。この小説は名監督マックス・オフュルス(1902ー1957)が同名のタイトルで映画化し1952年に公開されました。ちなみに邦題は『たそがれの女心』(えっ、まさかの邦題)。

シャルル・ドゥ・ヴィルモラン
Simone Battistoni, Courtesy of HIMCO

あっ、話題が脇道に逸れてしまいました。審査員の続きです。

今年の審査委員は、「ジャンポール・ゴルティエ」ゼネラルディレクターのアントワーヌ・ガジェイ、2022年PV賞受賞者ジェニー・ヒトマン、そして常連である刺繍メゾン「ル サージュ」のアーティスティックディレクター、ユベール・バレール、『ニュメロ/Numéro』マガジン創設者のバベット・ディジアン、モード評論家のソフィー・フォンタネル、また写真家やアーティストを交え、11人が審査にあたります。

審査はこうして行われる
緊張漲るファイナリスト 審査員も集中力と体力勝負

同フェスティバルは昨年、コロナ明け本格再起動しわたしも久々に参加してきました。パンデミック前はパリから南仏まで飛行機での移動がほとんどでしたが、参加者の多くはTGV(フランスの新幹線)に交通手段を変えました。わたしも然り。そして昨年はとうとう念願が叶い、審査からフェスティバルに参加。なるほどこうしてPV賞が決まるのか!そのプロセスを体験できる貴重な機会となりました。

ファイナリストは毎年10人。各自がコレクションのコンセプト、素材、そしてモデル着用の7ルックを審査員団の前でプレゼンテーションします。英語が公用語なので語学力が必要とされるのですが、結果的にはコレクション次第。語学力があったに越したことはないのですが。この場が本番一本勝負、審査員たちとの質疑応答にはかなり時間が費やされます。

審査団の前でプレゼンテーション

これが終了するとすぐ、ファイナリストはモデルたちを率い隣接された会場へ移動。ここにはラグジュアリーメゾンのデザインチーム、バイヤー、そしてジャーナリストたちが待っています。審査員の前での緊張はここでのさらなるプレゼンテーションに続くのですから、ファイナリストの立場を考えると本当に大変。コンペティションとは結びつかないプレゼンとはいい、ファイナリストの目の前には彼らの将来につながる人たちがいる、言い換えればここは就職面談の場です。

プレゼンを見る側は、ジャーナリスト、バイヤー、デザイナー、モードアナリストではまったく意見が違う。昨年を例に見ると、コロナ禍の都市封鎖をコンセプトに身近な素材で美しいコレクションを制作したファイナリストがジャーナリストたちから「彼女がPV賞!」と予測したのですが、バイヤーやデザイナーは「今更コロナなんか聞き飽きた、次の発想が欲しい」とアップサイクリングで異次元的なコレクションを提案したファイナリストらを一押し。

最終結果として、グレン・マーティンズ率いる審査団は、ジャーナリストたちの予測を裏切り、バイヤーとデザイナーらが高い評価をしていたファイナリストたちに、PV賞、シャネル・メティエダール LE19M賞、サステイナビリティーメルセデスベンツ賞を授与したのでした。

第2のプレゼンテーション

2023年のファイナリストたち

さて、それでは今年のファイナリスト10人のファーストルックの画像をご覧くだされ。このところファイナリストは北欧勢が圧倒していたのですが、北から南の欧州勢がにまじりKパワーが芽生えてます。コンペティション本番前に、審査員気分でPV賞を占ってみてください。

Tiago Bessa(ポルトガル)
Alex Rhys Bizby(英国)
Fengyuan Dai(フランス)
Igor Dieryck(ベルギー)
Petra Fagerstrom(スウェーデン)
Leevi Iläheimo(フィンランド)
Jung Eun Lee(韓国)
Norman Mabrie-Larguier(フランス)
Bo Know Min(韓国)
Marc Sanz Pey(スペイン)

それではまた、アビアント!

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松井孝予

(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。



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