レディスブランド「エンフォルド」(バロックジャパンリミテッド)が話題だ。12年春、「リラックスエレガント」と称してデビューし、みるみるうちに大人の女性の心をつかんだ。
百貨店に出店しつつ、高感度セレクトショップにも商品を展開。ブランディングのうまさに触発され、横並びを想定したブランド開発を進める企業が相次いでいる。
それは、新市場である国内キャリアとラグジュアリーの間「ドメスティックコンテンポラリー(ドメコン)」を創造したと言える。「マウジー」「スライ」で一大ブームを築き上げ、今また新たなムーブメントを巻き起こす植田みずきクリエイティブディレクターに話を聞いた。
"人によって見え方が違う、かぶってもいいブランド"
─エンフォルドが生まれた背景は。
妊娠を機に1年間現場を離れて、いろんなことを客観的に考える時間ができたんです。「スライ」でできなかったことや、年齢と共に着たい服、シルエット、素材感が変化していることとか。スライの時は、「私こういうのが好きなんです、見てください」っていうことをどれだけ発信できるかが大事で、それが受け入れられた時代。でも今は、みんなが求めていて自分も求めているものじゃないと成功しないなと思った。
だからエンフォルドは、全部自分が着たいというよりは、自分が思う素敵な女性とか、自分の周りにいる人にあてはめた時に素敵に見えるなっていう洋服を作るようにしていますね。
スライを知らない人に着てほしいなと思っていたので、スライをやっていた私ですっていうところをいかに消すかがテーマでした。お客さんも、スライやバロックを知らない人から広がっていった。むしろ嬉しいことに、インポートブランドと間違われる方が多かった。
─日本のブランドにありがちな甘さがない。
そもそも甘いテイストが好きじゃないだけかも。今までの30~40代の女性が、必然的に着るであろうものをサンプルで作ってみたりはしました。例えば、ツイードのセットアップとか。
「この時期、世の中の大きな流れとしてはこういうMD」っていうのを聞いて、私なりに形にしてはみたんですが、商品化には至りませんでした。うまくはまりませんでしたね。
進化と安心を兼ね備えたブランドでありたい。自分のスタンダードがあって、そこにシーズンで着たい服をまぜていくのが大人の女性なので、そのバランスが全てだと思います。
人とかぶったらイヤなブランドもあるけれど、エンフォルドは、同じ商品なのにその人によって見え方が違う、かぶってもいいブランドにしたい。20~40代のみんなが似合うシルエットを追求するために、フィッティングモデルはそれぞれの世代の人に着てもらって、全員が似合うものを選びます。
"国内ブランドは意識しなかった"
─苦しい時期もあった。
お披露目した時、「誰に向けて作ってるの?どこで売るの?」って言われたことも多かった。はじめの2店舗が結構苦戦して、だめかもしれない、求められていると思っていたことは間違っているかもしれないと思ったことも正直ありました。
でも、伊勢丹新宿本店の1週間のポップアップですごく手応えを感じたんです。50代の方が買ってくださったり、国内のキャリアブランドじゃなくて、「ヘルムートラング」とかとの買いまわりが多かった。
展示会でブランドの価格帯と商品だけを見ると、国内のキャリアブランドに並べて置かれそうな設定ではあったけれど、伊勢丹はポップアップでお客さんのデータを見た上で、インポートのコンテンポラリーブランドと同じ場所に置いてもらえた。そんな場所に置いてもらえることはなかなかないし、今のエンフォルドのポジションを形作るきっかけになった。すごく大きな出来事でした。
ポップアップを経て、対象を30~50代に上げ、かなり軌道修正をしました。体の気になる部分をうまく隠しつつ、エレガントに見えて、気取りすぎていないっていうコンセプトが明確になりました。
─顧客はどういう人たち。
ハイエンドなブランドも一通り着つくした方が、「安いわ」と買う層と、ハイエンドに手が届かないけれど、この価格だったら買えるという層の両方ですね。
価格設定は、インポートのコンテンポラリーブランドが本国で買えるぐらいの値段にしました。日本の大人ブランドの値段帯はほとんど意識しませんでしたね。あくまで自分達のコンペチターはインポートだと思いたかったから。同じ価格帯で勝負しても意味がないけれど、本国と同価格なら、そこと同じ目線に立てると思ったんです。
国内ブランドは、自分がデイリーに買っていなかったから、どこをコンペチターにすればいいのか分からなかったというのもあります。ブランドの軸であるパンツも、どちらかというとインポートサイズで国内の一般的なものよりは大きめ。でも、レングスは日本の標準に合わせています。
"素材のブランディングをすごく重視”
─生産面でも挑戦だった。
バロックで生産、MDをやっていた人たちではなくて、スタッフを全員変えて、全て外部のメンバーでチームを組みました。1からやろうというテンションでしたね。最初は人集めに苦労しました。
素材は感覚で選んでいて、なるべくいいものを見るようにしています。はじめは生地屋さんから、「みんなが選ばない素材ばかり選ぶ」って驚かれてました。「本当にこれでパンツを作るんですか?ブラウスの素材ですけど」って言われたり。でも、従来のパンツの素材で作っても意味がない。
作り方はオーソドックスでも、組み合わせは新しくないと面白くないので、そこは感覚でいこうと思っていた。「これを着たら気持ちよさそう」とか「今までに見たことがないスカートになりそう」とか。たぶん、メジャーじゃない素材というより、今までの国内ブランドは選んでこなかったけれど、インポートブランドでは普通なものを選んでいたんだと思います。
こうであるべきっていう視点が私にはないだけ。私も含めデザイナーが3人いて、洋服のシルエットを考えて、最終的に私が素材のMD構成を全て決めています。この月はこういう素材でいくとか。素材のブランディングみたいなことをすごく重要視していて、一番楽しい作業でもありますね。もちろん妥協はしなければなりませんが、より一番いいものを最後まで探そうとしている。
─素材へのこだわりはなぜ。
マウジー、スライをやっていた頃から、とにかくいいものを着ろ、その素材を覚えろと言われてきました。商品を作るときは、エルメスを見に行けぐらいのテンションで教えられた。「とにかく着るだけはタダだから試着しろ」って。
20代前半の頃は、ひたすらいい店に行っては試着して、素材感とかを勉強してきました。30代になってからは買えるものが増えたけど、「エルメス」や「セリーヌ」とかの50万円のコートは、買えないなーと思いつつ、羽織ってもいいですかって試着しています。今でも変わりませんね。
─最近は何を買った?
「ジュリアン・デイヴィッド」の服の上から着るメッシュトップがお気に入りです。「コムデギャルソン」の綿入りのアシンメトリートップとか、他のブランドにはパンチのあるものを求めています。それにうちのシンプルな服を合わせるバランスが好きです。
"海外は次の一手”
─顧客のテイストが幅広く、ある意味、新しいコンサバ服とも言えるのでは。
確かに商品化する最後に、モードになりすぎないようにしようというのが議題になります。素材感がモードすぎるのは避けたり、合わせるトップを選ばないボトムにしたり。モードにもカジュアルにもコンサバにもなりすぎないっていうのをすごく意識しています。
そういえば、コンサバな幼稚園に子供を通わせている友達に、「周りのママがすごくコンサバな服装だから合わせなきゃいけないけれど、エンフォルドならほどよくいける」って言われました。そういう層にも求められているのかな。
でも、コンサバ過ぎると面白みがなくなるので、少しエッジがきいたり、少しくだけたものにも力を入れています。来春物からは、それを反映したコレクションラインを立ち上げて、国内の一部の店舗と海外に向けて展開します。
─具体的には。
今秋冬物で初めてパリで展示会をして、「もう少しブランドの顔が前に出たものも欲しい」と言うバイヤーが多かった。もちろん売れている商品があってこそだけれど、海外では、ブランドの色をもう少し出したバランスが求められているんだなって。
海外に出たのは、国内で出したいところにほとんど出させてもらって、次の一手を打たなければと思ったから。百貨店展開をもっと広げる策もあったかもしれないけれど、今の市場を見て、ブランドイメージを壊さないまま違う可能性を見つけられるのは海外かなと思ってチャレンジしました。
反応は思ったよりもよくて、経済成長的にもアジアからの発注量が多かったけれど、ロンドン、ロス、ギリシャと分散していました。国内でも、30代向けのブランドが増えて、まとまって出られる場所ができればやっていきたい。うちの力だけでお客さんを呼べるブランドではまだないと思っているので。
─今後は。
来年か再来年ぐらいに路面店を出したいです。ブランドの世界を内装を含めてしっかり表現したい。一つの節目としてそれができたら、ブランドがもう少し定着すると思う。
家に帰れば普通のお母さんですよ。でも、子供にご飯を食べさせながら、「あのスカートのタック、もう一本増やしたほうがいいな」と思いついたらすぐ電話しちゃったりする。家にデスクを作って、家で仕事が出来るようにしたいと思っています。打ち合わせに来てもらえるぐらいの環境にしたい。子育てしながら仕事もできる家がテーマなんです。
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